ティセ子さん、あどべんちゅあ

庄司卓

第一回 ティセ子さん、異世界へ行く

第1話 ティセ子さん いん ISEKAI!!

 ふわふわの金髪。冴えた碧色の瞳。夜明け前の空を思わせる白地に青を金色があしらわれた服。


 どこかしら小鳥を思い起こさせる、ぽややんとした無表情の女の子。


 そうです。ティセ子さんです。


「異世界」


 唐突だがティセ子さんこと、ティセ・グロリアスドーンは異世界に来ていました。


「なるほど。なるほど、なるほど。ここが異世界なのですね」


 とまぁ一頻り異世界の風景を堪能した後、ティセ子さんは言いました。


「異世界には来ましたし、それでは帰りましょう」


「待て、待て! 待て!! 待てぃ!!! そこの愛玩鳥類!!」


 突然、現れたピンクブロンドのツインテール!


「ジャンガリアンハムスター」


「ジャンガリアンハムスターではない! ラヴィー・スプレンディットペンデュラムだ!!」


 そうです。ラヴィーさんです。


「ジャンガリアンハムスターではない?」


「ジャンガリアンハムスターではない! ラヴィーだ!!」


 ティセ子さんは二度、三度とうなづきます。


「知ってます」


 知ってるそうです。


「知ってるならいちいち確認するな!」


「ラヴィーがあまりにもジャンガリアンハムスターに似ているので間違えてしまうところでした」


「いい加減に私とジャンガリアンハムスターの区別くらいつけろ!」


「もしもジャンガリアンハムスターだったら、異世界にジャンガリアンハムスターが居るのかと言われそうです」


「まぁ異世界警察の人に文句を付けられそうだな」


「むしろジャンガリアンハムスター警察の方が恐ろしいと思います」


「そっちか! 居るのか、ジャンガリアンハムスター警察!! ゴールデンハムスター警察とか台湾リス警察もいるのか!」


「居るかも知れません」


「………………」


「恐ろしいですね」


「まぁ、実際に居たらそれはそれで恐ろしいな。ジャンガリアンハムスター警察」


「そうですね。恐ろしい。実に恐ろしい」


「ところでお前も異世界に来たのだから、ちょっとは冒険くらいしてみたらどうだ?」


「異世界?」


 ティセ子さんはちょこんと小首を傾げます。


「異世界と言えば一つ気になっていた事があります」


「ほほう」


「緑の山々」


 ティセ子さんの言う通り、遠くには緑の山々が連なっています。


「青い空」


 ティセ子さんの言う通り、頭上には青い空に白い雲が浮かんでいます。


「草原と森林」


 ティセ子さんの言う通り、ここは草原で少し離れた所には森林が見えます。


「田舎?」


 ティセ子の言う通り、ただの田舎に見えない事もありません。


「異世界だ! 異世界というのは、こういう物なんだよ!」


 ラヴィーさんは反論しますが、ティセ子さんも黙っては居ません。


「異世界でしたら、もうちょっと分かりやすく異世界っぽくした方がいいと思います」


「そういうのはいいから! 読者が異世界に求めてるのは、そういうのじゃないから!」


 ラヴィーさんの言葉にティセ子さんは考え込みます。


「なるほど。なるほど、なるほど」


「分かったか」


「分かりました」


 ひょいと手を挙げてティセ子さんはそう答えました。


「分かったので、帰ります」


「だから待てぃ!!」


 帰ろうとするティセ子さんはラヴィーさんは慌てて引き留めました。


「なんでお前はそうすぐに帰ろうとする! 大体このお話のタイトルは『ティセ子さん。異世界に行く』だろう!!」


「そうですね」


「だったらもうちょっとゆっくりして行け」


「いえ、大体用事は終わったので」


「用事?」


「はい。『ティセ子さん、異世界へ行く』ですから。もう異世界に来ました。なので帰ります」


 タイトル回収!


「来ただけだろう! 帰るって、そもそも帰れるのか?」


「帰れますよ」


 ちょっと得意そうにティセ子さんは言いました。


「どうやって?」


「11次元の角を3.5次元寄りに1120度くらい曲がって、そのまま7次元方向にまっすぐ……」


「あ、うん……」


 ラヴィーさんにはさっぱり分かりません。


「それから8次元くらいの所にあるコンビニの角を曲がって、まっすぐ行くと郵便局があるので……」


「待て待て待て!! なんで高次元にコンビニや郵便局があるのだ!!」


「ないと不便ですからね」


 ティセ子さんの言う通りです。そんなティセ子さんに、ラヴィーさんは憤然として何か考え込んでいましたが、ようやく気がついたようです。


「……あ、分かった。冗談だろ」


「そうです」


 素直に答えるティセ子さんにラヴィーさんもあきれ顔です。


「あ~~、まったく! 突っ込みが追いつかん!! せっかく異世界に来たのだから、ちょっとは冒険していけ」


「冒険と言うと、未踏峰に登頂したり、無人島を発見したりですか?」


「いや、そういうんじゃなくてだな……。まぁ、モンスターを退治したり、モンスターを退治したり、モンスターを退治したり」


「なるほど。なるほど、なるほど」


 ティセ子さんは何度も肯き言いました。


「ゲームですね」


「それは禁句な!」

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