第24話 皆同じなら②


「湊、お前本当にしらないの?好きな呼吸言えって。俺は月かな。」


「だから知らないって。よくわかんない漫画の話するのやめてよ。」


 しばらく待っていると鳥居側から豪快な男子の声と、遠慮のない女子の声が翔とハレの耳に入った。


「お!来た来た。」


 翔がわざとらしく呟いた。先程の会話で翔はハレと喋る気が無くなり、沈黙が続いた。正直なところ気不味い状況から抜け出したかったのだ。


「俺迎えに行ってきますよ。」


「うん。でも決して振り向いちゃいけないよ。彼らに会うまでは。」


 急にネタを仕込んだ言葉の投げかけに翔は鼻から息を吐いた。


 どうやらこの人外は人の気持ちを理解する気が全くないらしい。自分の発言で俺が不快な思いをしているのに気づかない。だからふざけらる。


 翔は一瞬無視して二人の元に向かうことも考えたが、振ったネタを無下にされればハレが気を落とすのもわかりきっている。そのせいで協力に手を抜かれても困る。仕方なく返答を考える。


「……もしかして劇中に出てきた神様しか入れないお店って本当にあったりするんですか?」


 翔が足を止めて、振り返り質問した。翔は話を聞いてるフリをする事だけは得意だった。興味有り気にそれっぽい質問すれば相手は楽しく喋り続けられる。


 因みに振り返っても何も起こらなかった。


「ありますよ。今度一緒に行きます?」


 翔の体がピクリと揺れた。


 うわぁ・・。悔しいけどめっちゃ気になる。


 予想外の返答が帰ってきて、翔は不覚にも興味を持ってしまった。ハレの話題ではしゃぐのも翔は嫌だったので態度には出さなかった。


「ええ。生きてたら奢って下さい。」


 だから淡々と言ってから入り口方面に向かった。翔のことを、ヒラヒラ手を振ってハレは笑顔で見送った。


 翔はハレと別れ、入り口に向かうと二人の男女が見えた。金属バットをもったオールバックの学ランと、金髪ツインテールの短いスカートを身に着けたギャル風の女の子。夏樹と湊と対面した。


 ハレが気を利かせてくれたのか、道の両脇に設置された狛犬の石像の口にはいつの間にか蝋燭の火程の灯りが付いていた。


「出迎えてくれるなんてサービス良いね。それともあのインチキ神様と二人でいるのがよっぽど退屈だったの?」


 開幕湊に確信を突かれ、翔は思わず苦笑いを浮かべた。


 「いや二人と話したかったんだよ。今回もそんな時間ないみたいだから。てか湊ちゃん寒くないの?」


「そんな気寒くないよ。大丈夫。」


 それなりに涼しいハズなのに制服の紺色のスカートは短く、白いシャツは半袖だった。蝋燭の灯りに照らされた金髪のツインテールは絶好調と言わんばかりに輝いてて、彼女のファッションは気温では決まらないらしい。


 「そっか。急な気温の変化危ないから風邪ひかないでね。因みにハレさんはかなり面白いよ。」


翔は先ほどの会話内容を夏樹と湊に話した。


「えー絶対適当言ってるだけだって。」


「でも本当だったら面白くね?神の国かぁ。」


夏樹がワクワクした様子で続ける。


「雲を払い終わったら今度は神の国だな。俺と翔で攻めに行こうぜ。」


夏樹は翔の肩を組んで言う。身長が百八十あるので翔に合わせて僅か数センチ膝を曲げた。


「普通に怖いからやだよ。」


「確かにちょっと怖いな。もし神の国襲撃する前はお参りしてから行こうぜ。ご利益あるかもしれないし。」


「あんた本当に馬鹿ね。それはお参りじゃなくて犯行予告って言うのよ。」


「フフっ。良いよ、行こうよ。何か勝てる気して来たわ。」


 会話を楽しんだ後、三人は本殿に向かって再び歩き始めた。

歩いている最中だった。


「そういえば伝えなきゃいけないことあったんだ。」


夏樹が止まって、思い出したように話し始めた。


「母さんの腰が完治してた。あいつの力は本物だぞ。」


 ハレの言う願いを叶える力。証明する方法が無かった為、これは翔と湊にとって衝撃だった。


「へー。腐っても神様だったんだね。」


「腐ってるかどうかは知らないけど・・・。夏樹はお母さん元気になって良かったね。」


 「ああ…本当に。俺・・母さんと一人暮らしなんだ。」


 夏樹が翔の言葉を受けて話し始める。夏樹らしくなく少し落ち着いた話し方だった。


「迷惑ばっかかけてたから、何かしてやりたいと思ってて今回それができた。だからお前らにはめっちゃ感謝してるんだ。ありがと。」


 深々と夏樹が頭を下げた。


「そういうのやめてくれる?別にあんたの為に戦ってないし。」


「湊ちゃん。今の時代ツンデレは流行らないんじゃない?」


「うざ。めんどくさいのは夏樹だけにしてよ。」


 湊はプイっと顔を逸らした。


「二人も個人的な願いがねーなら親に使ったらどうだ?」


 夏樹の提案に湊が首を横に振る。


「私は自分の為に使うけどね。お父さんもお母さんもすっごい私の事可愛がってくれてさ。私が私らしく生きてるだけであの二人は幸せなのよ。だからあの二人もそれ以上は何も望まないでしょ。」


「湊らしい意見だな。翔は?」


「俺はそのつもりだよ。母親の為にも・・・・。そして皆の為の願いを考えてる。・・・途中で変わるかもしれないけど。」


「そっか。やっぱり翔も親と仲良いんだな。」


「うん。この世で一番尊敬してる人だ。」


 翔が堂々と言い切った。後ろめたくない本音というのは簡単に言えて口が気持ちよくなる。こんな事しか言わないで生きられたら、もっと自分を好きでいられたのにと翔は思った。


「絶対生きて帰ろう。帰りを待ってくれる人が居るんだから。」


「おう!任せとけって!」


「当たり前でしょ。」


 一しきり親の話をした後、再び三人は本殿に向かった。


 てか翔君って不登校だったの。全然わかんなかったよ。

俺もあの時ビックリしたなー。嘘じゃないんだろ?何があったんだよ。

それに関してはまた今度話すよ。長くなるからコーラとポップコーン忘れずに持ってきな。


 三人の声が段々と小さくなって、木の陰に隠れていた大人びた少女が姿を現した。黒い長そでのセーラー服に、水色の毛糸のマフラー。翔たちと雲の上で戦ったもう一人の少女、真奈美だった。


 彼女は少し遅れて到着した。そんな時話していたのは家族の話題。彼女は心穏やかに聞く自信が無かったので、今まで木の陰に身を潜めていた。肩まで伸びた黒い髪を耳にかけて呟く。


「愛されて無いのは私だけか。やっぱり皆…私とは違うんだ。」


 昨日新しく腕に増えた痣がじわりと痛んで、真奈美は腕を優しく摩った。


「でも行かないと…。私は自立するんだ。」


真奈美は本殿に向かって歩き始める。そんなに時間はたっていないはずなのに、前を歩く三人の背中はとても遠くにあった。

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