第23話 皆同じなら①

 鳥居を潜って本殿に向かう道中、ファサッと翔の顔に何かが直撃した。

「うわぁ・・。なんだ?」

 どうやら道にはみ出た木の枝だった。神社内はとにかく暗くて視界が効かない。今日は月明かりも無く、道の両脇に設置された狛犬の石像も口に蝋燭の火を宿していない。石床が真っ直ぐ伸びてなければ簡単に迷えただろう。


 本殿に着くと同時に肩を叩かれた。


「お待ちしてました。翔君。さっきぶりですか。」


 聞き慣れた声に振り向くと、誰かが立っていた。いや・・正確には誰か解るのだが、暗くて姿が見えない。声の主が「ああ。みえませんか。」と言うのと同時に二人の傍に人間の胴体位の大きさの火の玉が現れた。急な光源に翔の目が眩むが、声主の姿は露わになった。黒髪マッシュパーマに、「女の扱いにはなれてます」という自己紹介が似合う容姿。狩衣姿が『ホストが神主のコスプレした姿』にしか見えない。


「ちゃんとハレさんでしたか。声真似して近づいて来る幽霊かと思いました。」


「想像力豊かですねー。」


 ハレは笑いながら言う。


 先ほどの火の玉は本殿前でメラメラ燃えていた。翔の「神社が暗すぎる。あと寒い。」という声を受けハレが消さずにそのままにした。二人でお賽銭箱前の階段に座って火の玉を眺めているのは、何だかキャンプファイヤーみたいだった。


「さっきはありがとうございました。何か気を使っていただいて。」


「いえいえ。もっと早く言いたかったんですけどね。ドタバタしちゃってて。

あー・・。そういえば何か聞きたいことあります?三人が来るまでほんの少し時間ありそうなので。」


 願ってもない提案だった。先ほどの励ましがきっかけで翔はハレに興味を持っていた。神様らしい部分はあるけど少し抜けてて、でも人の気持ちに鋭い指摘ができる。そんなハレの内面をもっと知りたかった。翔は「あります。」と答えてから質問する。


「何で人類を救おうとしてるんですか?」

 

 結局、何故ハレが人類を手助けするのか誰も把握していない。翔はハレ自身の利益の為と考察していたが、もしそうならどんな利益があるのか。この質問の答えでハレの本質が掴めそうな気がした。


「人を見るのが好きだからです。人が滅びると私が退屈するんです。」


ハレは随分あっさり答えた。


「そう思いませんか?人の数ほど違いがある。何千年も人間をずっと見てきて飽きない理由です。」


「思いません。」


 翔は横に首を振って続ける


「俺思うんです。人は違いがあるから争う。なんであいつだけ。なんでおれだけ。そうやって他者と自分を比べて傷つく。よく『他人は関係無い。自分は自分だ。比べる必要なんてない』みたいな意見あるけど、そんなことできると思いません。俺達は社会にいるんだから。」


「いっそのこと皆同じ姿形能力で生まれてくればよかった。そうすれば誰も傷つかないのに。ねぇハレさん。どうして皆違って生まれてくるんですか?」


 翔は人間を超えた生命体に問いかける。神様って俺達を作ったんでしょ?それなら意図があるはず。人が平等じゃない事にきっと明確な答えが会って仕方無いって納得できる筈なんだ。


「つまらなくないですか?みんな同じだと。」


 翔は思わず目を見開いた。この人俺の話聞いてたのか?思わずフーと息を吐く。


「俺達は誰か楽しませるために生きてません。」


 遠慮のない発言に翔の語気が強くなった。そしてこの受け答えから翔はをかすかに感じた。確かめたい気持ちと、知りたくない気持ち。相反する二つをもってハレに尋ねる。


「・・・そもそもハレさんは人のどんな所を見るのが好きなんですか?」


「歴史の転換期とか・・・例えば戦争とかは見てて面白かったですね。原子力爆弾の台頭は驚きましたね。人類はここまでの力を手に入れたかって感心しましたよ。」


 翔は絶句した。やっぱりそうだ。ハレは俺達・・人の営みを作り話の物語と同じ目線で見ている。俺達が漫画やアニメをみる感覚に近い。やっぱりこの人は人間と違う。改めて理解した。そうして自分の不甲斐なさを思い知った。少しでも興味を持った自分に腹が立って仕方ない。でも、こんな無神経な事を言う人があんな真っ直ぐな励ましができるんだろうか。


…いや神様も同じなのかも。矛盾した考えが一つの体に共有されてるのは。



 しかし、翔はハレの本質を理解して『ある意味信用できる』と思った。俺達だって好きな漫画やアニメの続きが見れるならお金を出して単行本やディスクを買って応援する。自分が楽しむために。そういう行動原理なんだろう。


 目的は同じ。裏切られることはないだろう。これからも頼って行こうと思う。ただ、大切な事を話す気は毛ほども無くなった。

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