第1話 心体性矛盾理論は無限の極夜によく溶ける⑤
ハレにそう言われた所で翔は目を覚ました。目に映る天井は自分の部屋の物で、帰って来たのだと理解する。
「しかし改めて振り返っても突拍子の無い話だったな。」
夢と間違うような不思議な体験。
他者に事細かに説明しても笑いすら取れない冗談として流されるだろう。
しかし今あった出来事を夢や幻だと思えなかった。
何故ならハレの言う通り覚えの無い記憶が頭に勝手に蓄積されていたから。
集合時刻、場所、報酬等。
ハレは心を読むだけではなく、記憶の受け渡しもできる。言わなければならない事前情報は全て翔の中にあった。
そうして翔にとって今まで縁の無かった外に行くという選択肢が急に現実の物となった。
「そうか。外に行くのか。」
そう呟いた時だった。
バン!と窓を勢いよく叩く音が部屋に響いた。
「死ね死ね死ね死ね死ね。お前何普通に生きようとしてるんだよ。お前がまともに生きていけるとでも思ってるのか?お前も俺と一緒に死ねば良かったんだ!こっちに来い!さぁ!」
足場のない窓の外に、血まみれの少年が映っていた。翔と同い年で、同じ学校の制服を着ている。
シルバーの十字架のネックレスをつけて窓ガラスにおでこをこすりつけ、血走った目で翔を睨み続ける。
ハレの声に狼狽えた翔だったがこの心霊現象には一切動じていない。
それは毎日必ず見ている現象だったから。いつも通り瞬きをするとその少年は消えた。
「わかってるよ。弁えてる。」
立ち上がって机にあったハサミを持った。暫く刃の部分を眺めていた。
そうしてハサミを持ったまま洗面台に向かった。
伸びた髪を切って、約束通り今日の夜中の三時に『晴天神社』に行く為だ。
「逃げられると思うなよ。」
誰も居なくなった翔の部屋で血まみれの少年の声が響いた。
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