第1話 心体性矛盾理論は無限の極夜によく溶ける③

「何処だ?ここは?」


気が付くと何も無い真っ暗な空間に翔は立っていた。自分の両手を目の前に持って来ても、視界は暗黒しか写さない。


「聞こえますか?」


聞き覚えのある声が聞こえた。さっき翔が部屋で聞いた若い男の声。音の発信源を探ろうとしたが、直接頭に響いてるようで特定できない。


「その反応は聞こえてますね。こんにちは。引島翔君でよろしいですが?」


「なんで俺の名前を知ってるんですか?いやそもそもここは?貴方は?」


あまりにも状況がわからず思っている事を全て口に出す。


「お・・落ち着いて下さい。一つずつ話して行くので。」


謎の声は質問攻めにされ少し狼狽えた。

気を取り直す為に咳ばらいを一つ挟んで言葉を続ける。


「まずは自己紹介からしましょうか。僕の名前は『ハレ』。君に助けを求めに来たものです。結論から言いましょう。お願いします。人類を救う為に力をかしてくれませんか?」


「ん?」


訳の分からない声に、訳の分からない場所で、訳の分からない事を言われ翔は眉を潜めた。情報は何一つ足りて無いので、頭に『?マーク』を浮かべる位しかできなかった。


「そうか。夢を見ているのか。」


一番状況を説明できる状態を翔は考察した。


「夢ではありません。それは何となくわかっているのでは無いですか?」


翔はハレの言い分を否定できなかった。

体制を崩さないで立っていると足に疲労が溜まっていく。思い通りに思考して会話をする事ができた。夢では味わえないリアルな感覚が体を巡る。


「なら俺の幻聴だ。ずっと引き籠ってたからな。」


「なるほど。僕の存在そのものが幻だと。では幻かどうか判断するのは、最後まで話を聞いてからにしてください。」


なんで俺が話を聞く前提なんだ?ほっといてくれよ。


そのまま帰ろうとした時翔は初歩的な事に気が付いた。


あれ?どうやって帰るんだ?


周りを見渡す。辺りは暗黒で数センチ先すら見えない。


辺りを照らす道具は手持ちに無いので先を照らす事もできず、何処を進んでいいのかもわからない。


正にこの状況、目隠しされて拉致監禁されてるのと同じ。不安の汗が背中に滲んだ。


「拉致監禁って大げさですね。確かに今翔君はこの場から帰れませんが危害を加える事は絶対にしないので大丈夫ですよ。」


「え?」


瞬時に出たのは理解不能を一字で表す言葉。

口に出してない『拉致監禁』というワードを、聞き手が復唱する異常事態。

反応した全身の鳥肌。最悪の想定をする。


心が・・・読めるのか?


「はい。僕の数ある取り柄の一つですよ。」


ハレは心の声に再度当たり前のように返答する。愉快そうに笑っているが、人間離れした力に恐れを感じた。翔の意志が命じた訳では無いのに無意識に後ずさりした。


「ん?いや!待ってください!」


翔の反応を見て男の声は言葉を付け足す。


「僕は君らの敵じゃありません。味方です。勝手に心を読んだのは申し訳ありませんでした。心が読まれるのは嫌みたいなのでもうしないと誓うので話を聞いて下さい!お願いします!」


翔は心の内を晒す事は嫌いだった。


曝け出した結果、中学校時代周りとの齟齬で人間関係がうまく行かなくなった。


だから隠したい。

・・・・など考えながら翔は自嘲した。


バカか。別にこれは全部幻なんだから驚く事なんて無いだろ。全部俺の妄想。つまりこのハレって奴も俺から生まれてるんだから俺の事を知っててもおかしくない。


そう言い聞かせても暗黒空間から帰れない事実は変わらない。翔は目を瞑って呼吸を整えてからその場に座った。


「わかりました。詳しく説明していただけますか?」


翔に与えられた選択肢はそれしか無かった。


「勿論です!」


翔が話を聞く態度になって、ハレの声が明るくなった。

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