第1話 心体性矛盾理論は無限の極夜によく溶ける②

数週間前の話だ。世界から朝、昼、夕方が無くなった。


原因は超密度の雲が太陽光を遮ってるだとか、無限に日食が続いてるなど様々な意見があるらしい。


つまり世界の英知を集結しても原因はわかっていない。


しかしこれから地球がどうなっていくのかは簡単に結果が出た。


『急激な地球寒冷化が進み、三週間後に地球は人類が住むには過酷な環境となり今の土地を捨てなければならない。そして最悪一ヶ月後に人類は滅亡するかもしれない』


と言う発表だった。


当初は皆話半分で聞いていた。しかし発表から三日後の七月二十九日。真夏を象徴する七月終盤。


その日の東京の気温は十四度だった。少し肌寒いと感じたのは気温のせいだけでは無いだろう。





『五時になりました。相変わらず空は暗いままですね。こんな時こそ人類一丸となって、協力するんです。必ず陽は昇ります。それまで頑張りましょう。それでは次のニュースです。』


何気なくテレビを付けただけで不快な気分にさせられたので、黙って電源を消した。


「『今のご時世に対して何でもいいからコメントして』とか偉い人に無茶ぶりされたのかな?だとしたら可哀そうだな。」


と翔は少し同情もしたが、黙って視聴率の足しになる気分でも無かった。


カーテンを閉め、翔は布団に倒れた。


流れる様にスマホを取り出し、電源を付けふと目に入ったのはLINEの通知数。それは千を越えていて彼の心臓を揺らした。


『なんで、お前みたいなのが俺達の周りいんだよ!死ね!』


『邪魔になってるってわからないの?居ても居なくても変わらないんだから来なきゃ良いじゃん。』


過去に聞いた言葉が頭に蘇り吐き気を催す。


ペットボトルの水を勢いよく取って流し込んでいく。放置していたせいで少しぬるい。


LINEは見ない様にしていたのに、今日に限って翔は油断していた。


「違う……。本当に違うんだ…ごめん。」


翔は唐突に謝り始めた。

誰が聞いてるでも無いのに。


やる事も無いので翔は横になって、スマホを漫画の山の上に置いて、もう一度眠りにつこうとした。


目を瞑って横になっても直ぐに眠れる訳では無いので、眠る前は考え事をしてしまう。


自分の状況を考えるのは嫌だったので、翔は興味もないのに人類のことを考えていた。


人類は今大変な状況にある。皆で力を合わせてこの危機を乗り切ろうとしている。


しかしそれは社会に生きる人間の話であり、社会の外に居る引きこもりの翔とは関係が無い。


人類滅亡と言われてもピンとこない。

そんな抽象的な脅威で団結しようと言われてもできるはずがない。


なら具体的な脅威ならどうだろうか。


「いやどっちでも同じか。どちらにせよ団結なんてできる訳ねーんだ。下らない。」


寝返りをして続けて呟く。


「どうせなら皆死ねば良い。」


「それをさせない為に今僕が頑張ってるんですよ。」


翔の言葉に誰かが返事をした。二十代程の若い男性の声。


勢いよく立ち上がり部屋をきょろきょろ見渡した。聞き間違いだったのか部屋にはやはり誰も居ない。


「一年も引き籠ってたから幻聴でも聞こえ・・・・」


次の瞬間強烈な眠気に襲われた。抵抗しようと考える間もなく翔は眠りに落ち、再び布団に倒れた。





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