第21話 引島翔という人間の本質②
体育館裏。五人の不良が一人の男子生徒に暴行を加えていた。
男子生徒は涙と泥でぐちゃぐちゃになっていて買ったばかりであろう制服はボロボロだった。
イジメの現場に十三年生きてて初めて遭遇した。
目が離せなかった翔は、男子生徒と目があった。
目を思い切り瞑って、涙を垂らして翔見る切実な視線。
そうして嗚咽塗れで、叫び疲れた弱弱しい声で一言だけ呟いた。
「お願い・・・・・助けて・・・・・・。」
今でも翔の中に留まり続ける彼の心の底からの願い。
翔はそれを・・・・・それを・・・・・・
聞き逃すわけが無かった。
「お前たち何してんだよ!」
そう叫びながら一人の不良に飛びかかり顔面を思い切りぶん殴った。
不良は吹き飛ばされ地面に倒れたまま動かなくなった。
不良達の視線が翔に集まった。翔も一人ずつ睨み返していた。
しかしそんな悠長にしていたせいか、背後から迫る二人の不良が翔の右腕と左腕を胸でかかるように押さえ込んだ。
まるで十字架に貼り付けされた形になり、相手のパンチをガードする手段が無くなっていた。
「何カッコつけてんだよ。おい。俺達が押さえてるからコイツのことサンドバッグにしろ。」
「お!良いのか?」
二人の不良がニタニタ近づいてきた。
翔は怒りがとまらなかった。
「反吐が出る。お前らみたいな最低な奴は俺が絶対に許さない!怪我をして反省しろ!」
翔が力任せに右腕を振ると、右腕を押さえて居た不良が吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
更に左腕をムリやり引き抜き、左腕を押さえて居た不良の顔面を思い切り蹴り上げた。
顎に入ったのか膝から落ちて、その場に倒れ込んだ。
「おい!まだやるのか?」
翔は残った不良二人を強く睨みつける。
「当たり前だろ!」
残った不良二人は強かった。
翔は何度も殴ったのに、二人は倒れる事無く果敢に殴り返してくる。
翔の頬は赤く腫れ、口の中からは常に血の味がした。
それでも翔は優勢だった。
二人を同時に相手に立ち回る。
翔は喧嘩だけは得意だった。やりすぎて怒られてしまったこともあるほどで極力手を出さないよう生活していたが、そんな事は怒りで忘れた。
二人の不良が負けそうになると、二人は武器を持って仕切り直し、金属バットで翔の膝やら腕を容赦なく殴りつける。
あまりの痛みに逃げ出したくなった。
それでもこんな奴らに負けたくない思いが勝ち、翔はなんとか武器を持った二人を倒す事に成功した。
五人を倒した翔は傷だらけだ。
しかし今殴られていた男の子はもっと傷だらけに決まってる。
体も心も。
翔は金属バットで殴られてひび割れた膝を地面につき、笑うと痛いその顔で満面の笑みを浮かべてこう言った。
「もう大丈夫だ。また虐められたら俺に行ってくれ。すぐに助けに行くから。俺は引島翔。確か同じクラスだったと思うけど名前は?」
「幅留静夢……。」
ボロボロの男子生徒は弱々しく答えた。
そこで翔は目が覚めた。
彼と初めて出会った時を夢にみるなんて。
母さんに静夢の話をしたからかな。
それにしても……どうして俺は無責任な事を言ったんだろう。
喧嘩に勝って気分が良かったからかな。
「本当にごめん。」
一人しかいない部屋で謝罪をし、翔はまた瞼を閉じた。
まだまだ世界は暗いまま。
だったらせめて日が昇るまでは寝て居たい。
翔は切実に願った。
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