第18話 無限極夜の真相②

「あの雲は、人間の不の感情を吸い取り、自分の力に変換する力を持っています。」


「意味がわかりません。」


翔が思わず立ち上がる。

ふざけた話だ。揶揄うのも大概にしてほしい。

思いの力だけで、世界中をパニックに叩き落とせるならもっと早くそうなってるだろ。

あ、そういえば俺喋ったらダメなんだっけ。


「ごめん。でもちゃんと聞いておきたくて。」


両手を合わせて真奈美に頭を下げる。


「大丈夫。この話は結論だけ言われても仕方ないし。」


翔は真奈美に断りをいれ、質問を続ける。


「人が負の感情を抱くと、雲が世界を覆うんですか?」


「馴染みの無い話でわかり辛いですか?では一つ例え話をしましょう。暇そうにしてる湊さん?」


「……あ、私?何?」


話しかけられるとは思ってなかった湊がワンテンポ遅れて反応する。


「もし貴方が辛い思いをして悩んだ時どうしますか?」


何その質問。別に私に聞かなくても良いでしょ。

そう言いながらも湊は答える。



「家族、友達と遊びに行ったり、笑い話にして忘れるかな。」


「悩みとの付き合い方の模範回答ですね。これは摂理的にも正しい対処法です。」


摂理?

翔の疑問を置き去りに、ハレは話を進める。


「では次です。もしその対処法ができない場合、どう解決しますか?」


すると湊は首を傾げ、悩み始めた。


「えー…そんな経験した事無いからわかんないなー。うーん…でも忘れるのを待つしかないんじゃないの?」


「そうですね。時間が解決してくれる…という考えですね。ありがとうございました。」


ハレは湊と話し終わり、再び翔と真奈美を見る。


「では次に翔君と真奈美さんに質問です。この解決しなかった苦しみは何処に行くのでしょうか。」


「…え、何処に行くって…いやいや時間が経ったら忘れて気にならなくなるって話しじゃないんですか?何処に行くも無いでしょう。」


「……もしかしてその解決しなかった負の感情が、空に登って雲を構築したってことですか?」


「真奈美さん。正解です。」


翔は一旦冷静になった。

何処の報道機関もそんな話は一切してなかった。だけど今までを考えたらどうだ?

雲の上に行き、不思議な力を身につけて化物と戦う。そんなのありえないじゃないか。

つまり常識に囚われていたら話についていけない。

『この世界がデタラメなんだからデタラメから目を逸らして信じないでどう生きろって言うんだよ。』

かつて真奈美に言った言葉を思い出し、自身の常識より目の前の発言を信じることにした。


「人間が忘れたと錯覚した負の感情は、空に吸い取られ、いつしか想いが形となりました。」


「世界は酷く残酷な物だ。明日はきっと今日より退屈でつまらない。その感情が集まった結果、世界から明日を奪う雲が生まれました。」


「ようは性格の捻じ曲がった負け犬共の尻拭いを私達がしてるわけね。いい迷惑よ。」


湊が吐き捨てた言葉には誰も反応しなかった。


「……雲ができた経緯はわかったけど、まだ質問に答えてもらってない。斉藤実知佳。私達があの雲に行く前に、既に居た彼女は誰なの?」


「あの子は…そうですね。言うなら第一層の管理人でしょうか。あの雲は四層に分かれていて、それぞれの層に人間が居ます。あの人達は明日を拒む人間達の代表として雲を守り続けています。」


そこまで聞いて翔は全てに気づいた。


辛い過去を背負った斉藤実知佳との会合、

彼女が求め手に入らず諦めた物、

雲が一部消えた理由、

そして四人を送り出した際に、ハレが言ったある一言。


「ハレさん…もしかして俺達がする事って…。」


「そうです。明日を諦め、進めなくなった階層の管理人達に、『明日の価値を証明する』事。

それこそが雲を唯一払う方法です。」


「明日の価値…」

ポツリと呟く真奈美。


「あ?どういうこと?」

全く話を聞いてなく、湊に質問する夏樹。


「しょうもないから別に理解しなくて良いわよ。どうせアンタはやることは変わんないんだから。」


ハレの発言を全て理解した上で、くだらないと吐き捨てる湊。


「残りの三人の情報は無いんですか?」


三人の感想は異なっていたが、すぐ行動に移そうとしたのは翔だった。


「明日の価値を証明するのが条件なら、残りの3人がどんな人間なのか知っていた方がやりやすいです。」


「良い考えですね。しかしできません。理由は二つ。」


翔は気づかれない程度に苦笑いをした。

できない事が多いな。この人も思った以上に苦労してるのかもしれない。


「一つ目は『雲を払う為』に三人と接するのをやめて欲しいからです。そんな下心見え見えの人の話を聞きたいと思いますか?」


「いや、俺はそんなつもりじゃ…でも確かにそうですね。すいません。」


翔は反省した。

焦りすぎていた。まるで自分の評価を上げる為にいじめられた子の味方をする学級委員のような。両頬をパン!と思い切り叩いて、ハレの話を聞く。


「そして二つ目は単純に調べられません。残りの3人は斉藤実知佳さんと違い、もう自ら命を絶ってこの世に居ないからです。」


「……そう……ですか。」


翔はふと障子から見える空を見た。

何処まで行っても星の一つすらも見えない。

まさに黒。この黒色の濃さを構成するのが

世界を憎み、呪いながら死んでいった絶望。生前聞き入れてもらえなかった怒りが、願いが、主張が顕現した理想の世界。

これこそが世界から原初の光を奪った無限に極まった夜の真相。


「階層に行けば管理人が心に根付く世界が広がっているはずです。斉藤実知佳さんの学校のように。だから一から調べて三人とお話しして下さい。」


翔はハレの言葉に力強く頷いた。


雲の上での戦いの疲れを忘れて、今からでも行けますと言わんばかりの決意に満ちた表情だった。


「と、まぁこんな所ですか。あと他に聞きたい事はありますか?」


「俺たちの傷が回復してのは何でですか?」


「あとサポートが遅れた理由。」


翔と真奈美が聞く。


「傷はここに戻ってきたら治るようにしてます。生きてさえいれば欠損だって治ります!サポートが遅れたのは、雲が分厚すぎて私の力の伝導率が悪かったんですよ…本当にすいません。ただ!対策はしたので次からはすぐサポートを受け取れます!ご安心を!」


ハレがそこまで話終わると、ところで…と小声で翔の耳元に話しかけた。


「私ってそんなに信用されてないんですか?」


神様でも人からの反応は気にしているようだ。

いや神だからこそかもしれない。人から信奉され、崇め奉られることこそ神の存在意義。

そこに綻びがあるとすれば気になるのも無理はない。


「まぁ……そうですね。時間なかったとは言え説明しなさすぎだったんで。あ、でももう包み隠さず話してもらえたんで気にしなくて良いと思いますよ!」


翔は思いっきり気遣った。しかし逆にそれがハレを苦しめた。


「はぁ…神として信用されず、挙句気を遣われるって威厳もなにも無いですね。」


この人…いやこの神意外と気難しいな。

翔がどう対応しようかと悩んでいるとき肩を落として項垂れているハレが急に背筋を伸ばした。


「よし!」と掛け声をあげると、四人を見る。


「私の行動で失った信用は、私がの行動で取り戻しましょう。」


そういって手のひらから炎を出し、あたりに強い光を起こした。

辺りが暗く、気づかないものが大勢居たが、その光でハレの後ろにある札束の山の存在を四人が確認した。


「では私のお願いを聞いてくれたお礼として、賞金と皆さんの願いを一つ叶えます!」


その発言で、四人のハレを見る目が変わった。

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