第18話 無限極夜の真相①
「言いたいことしかない。何で空は夜のままなんだ。それに他の3人は?」
翔は訴える。敬語を忘れ、傷ついた口を大きく広げ、傷ついた体で身振り手振りを大袈裟に。
そこである事実に翔は気づく。
変だ。全く体が痛く無い。
翔は自分の体を見る。
至る所にあった体の傷が何処にもなかった。刃物で斬られ、殴られ、刺された傷が綺麗さっぱり消えていた。
「一人で考えても謎が増えるだけですよ。だから一個ずつ返しましょう。まずは翔君以外の安否ですが…」
ハレはそう言いかけて、翔の後ろを指差した。
翔が振り向くとそこには3人が倒れていた。
横たわっていて動いていなかった。
翔の頭に嫌な予感が過ぎる。しかし…
うぅ…地面ゴツゴツして痛ぇ…
うーん。蚊耳元で五月蝿い。
夏樹と湊がぶつぶつ言ってるのが聞こえ、胸を撫で下ろした。
「ここは…?」
倒れてる二人の横で、真奈美が頭を抱えて立ち上がった。
真奈美は辺りをきょろきょろみわしてから翔を見る。
「そっか。帰って来たんだ。これで…」
「…いや多分何も終わってない。」
朦朧としてる真奈美に翔は上を指し空を見上げさせた。
「!?…時刻は?」
「朝の5時。」
「そんな!じゃあなんで…」
パン!
二人の会話を打ち切るようにハレが大きく手を叩いた。
翔と真奈美が振り向くと、ハレと目が合う。
「その疑問は全て私がお答えします。それに加えて貴方達の知りたい事も全て。」
二人は一度も瞬きせず、ハレの方をじっと見る。
翔の頬には蚊が止まり、血を吸っている。
それすらも無視し、ただ次の言葉を待つ。
「あの雲の上はなんだったのか。貴方達は何と戦っていたのか。どうして空が黒いままなのか。知りたくはないですか?」
ハレはそれだけ言うと背を見せて本殿の方に歩いていく。
「報酬の話もします。ついて来てください。」
二人で考えても仕方がない。
翔と真奈美が、顔を見合わせ意見が同じであるのを確認し終えると、二人は倒れたままの夏樹と湊を担いで大人しくハレの後について行った。
案内された本殿の中は真っ暗だった。
電気は通っていないらしく、ハレが持って来た蝋燭が無ければそれぞれの顔すら認識できなかっただろう。
ハレが蝋燭を地面に置くと、5人は蝋燭を囲い、円の形で座る。
「なんか怪談でも話すんじゃないかって雰囲気ね。」
先ほど意識を取り戻した湊が言う。
「怪談より怖い体験してきた後じゃあ、何話してもシラけそうじゃない?」
「安心しろ!翔!奴らがせめて来ても俺とお前が居れば負けないぜ!楽勝!」
「夏樹…あんたは会話しなさいよ。そもそも雲の敵は倒したんだからもう攻めてくる敵も居ないでしょ。」
「そんなことありません。」
ハレが喋ると蝋燭の火が揺れ、本殿の入り口がガタガタと音を立てた。
明らかに空気が変わった。その存在感に押され四人に緊張が走る。
「……というと?」
真奈美が聞きかえす。
「結論から良いましょう。君たちが払い切った雲は全体の一部でした。故にこの夜はまだ明けることはありません。」
な…!?
翔が驚きを口にする前に、湊がはぁ!?と叫んだ。
「全体の一部でした。ってどういう事?まさか知らなかったの!?」
「はい。これに関して申し訳ございません。」
「謝って済む問題か!こっちは命懸けで戦ってたのに…」
「金沢さん。落ち着いて。」
真奈美が湊の発言を遮って続ける。
「抑えて。気持ちはわかる。けど今は話が聞きたい。」
なんだ?
翔は真奈美の態度に違和感を感じた。
何か焦ってるような、急いでるような…別に顔や態度に出てるわけじゃ無いけど…。
俺の勘違いか?
「あと、ここから喋るのは私とハレだけにして。金沢さんは黙ってて。もちろん引島君も夏樹君もね。」
「どういうこと?真奈美さん。」
翔が間髪入れずに質問する。
発言の意図が気になったのは勿論、湊に何も言わせない意図も彼にはあった。
「ここで好き勝手喋っても話が進まない。だから早く合わせるために余計な反応をしない私だけが喋るべきだと思った。違う?」
いや違わない。ただ問題はそこじゃない。と翔は思った。そんな雑な言い方じゃ湊ちゃんは納得しないだろうと。
案の定真奈美と湊が睨み合う。
ただそこから何か起きるわけでもなく、目を逸らして湊が先に口を開いた。
「………わかった。今回は真奈美さんに任せるから後はなんとかして。」
多分私の知りたいことも聞いてくれるし。
そう言い終わると彼女は、四人に背を向けて横になった。
翔は勘違いしていた。
そうだ。雲の暴走っぷりで勘違いしてたけど、彼女は劣っているどころか優秀だった。
合理的な考えはできて当然……少し不貞腐れてる感じあるけど衝突は無さそうだな。
「ありがとう。金沢さん。勿論、全部話が終わった後個人で聞きたいことがあるなら好きにやってちょうだい。」
「よくわかんねーけど俺は黙ってりゃ良いんだろ?邪魔はしねーよ。」
「俺も反対する理由ないし。任せたよ。」
夏樹と翔が静観を決めたのを確認して「3人ともごめんね。」と言ってから真奈美がハレを見る。
「もう大丈夫ですか?」
「うん。お待たせ。ハレ。ここからは質問攻めするだけ。そっちこそ大丈夫?」
「勿論。なんでもお聞き下さい。」
「最初からそのつもりだから。何故雲が一部だけだとわからなかったの?」
「私の時代と違っていました。雲の一部払ったことでようやく全貌が見えたんです。」
「あっそ。因みに一部って大体どれくらいの規模なの?」
「25%。つまり皆様にはあと3回雲の上に行って戦ってもらいます。」
マジかよ…翔が困惑する。
さらっととんでもないこと行ってるじゃん。
つまりまだ戦いは長く、人類の危機は去っていない。
「そもそも貴方は何者?何故ずっと昔の話を知ってるの?」
真奈美はリアクションを取らずに質問を続ける。機械のようにただ喋る。
「薄々気づいてると思いますが、私は…皆様の言うところの神様です。本名はハレノカミと言います。」
「そうだったの?」
「マジか。神様って居たんだ。」
「絶対嘘。こんな適当な神様居てたまるか。顔が良いだけじゃん。」
翔、夏樹、湊がつぶやく。聞こえる声量でないので真奈美からお咎めの言葉は無かった。
「雲の払い方を教えなかったのは何故?」
あ、神様についてはスルーするんだ。
翔は残念な気持ちになった。
神様って言うなら普通驚くじゃん。
竜やツチノコが実在したのと同じくらい大事件だよ。
でも真奈美さんは驚かない。
確かに好き勝手喋って良かったらここで30分質問攻めしてそうだ。
翔は腕を組みながら一人で頷いた。
「私は…いや私達は貴方を信用してない。雲を払いたいと言った癖に、サポートが不十分すぎる。それに何故最初から戦える力を渡さなかったの?そもそも何故私達以外に人間が居たの?答えて。」
「……それはあの雲が人間の力によって作られたからです。」
ハレは言葉を選ぶように、世界を覆う黒い雲について語り始めた。
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