第8話 決戦前夜②

「ところで翔。お前良いよな。真奈美さん・・・あんな綺麗なお姉さんとずっと一緒だったんだろ?みなとも可愛いけどやっぱり年上って良いよなぁ。」


夏樹なつきが翔の肩に腕を乗せ、十年来の友達の様に接する。


「あんたが死んで生まれ変われば、女は全員年上のお姉さまよ。外に一人で行って来たら?」


湊が真顔で言う。優しい言い方では無かったが本気で言ってる様子でも無かった。


「仲間に言う台詞じゃねぇだろ!」


「誰が仲間よ!あんたのせいでどんだけ大変だったと思ってるのよ!いきなり廊下で

『逃げねぇからてめーらから来い!』とか叫んで化物呼び寄せて!一緒に居る身にもなりなさいよ!この馬鹿!」


女子トイレに夏樹と湊の声が響く。怒ってはいたが、完全に拒絶している訳では無さそうなので翔も静観を決め、半笑いだった。


「うるせーな。危ない時何度も助けてやっただろ。」


「あんたが作った危険からね!」


湊はやけに疲れていたが、夏樹が一つの原因なのもありそうだ。


「因みに真奈美さんは俺らと同い年だよ。」


翔が夏樹と湊の会話を縫って話す。


「本当⁉てっきり高校生位かと思った。」


「同い年⁉その体付きで?マジかよ!」


真奈美の体をじろじろ見ながら言い放つ夏樹に『こいつマジで・・・』と言いたげに湊が睨む。踏みつけられたゴキブリの死骸を見る様な目つきだった。


「おまえ無自覚全方位攻撃やめろよ。此処でお前の味方俺だけだぞ。」


「じゃあ充分じゃねぇか。」


お前無敵かよ・・・。味方として頼もしいけど・・・いや少し頼もしすぎるからもう少し牙を削っても良いんじゃない?と翔は思った。


「確かに他の女の子より発育は良かったから信じられないよね。」


真奈美は夏樹の発言を気にせず続ける。


「でも貴方も身長百八十あって良い体格してるじゃない。あの時教室来てくれた時頼もしかったわ。ありがとね。お互い発育良い同士頑張ろうね。」


夏樹は自分の功績を褒められ、仲間意識を植え付けられ露骨に照れ始めた。頭を掻いて『えへへ』とまで言い始めた。


「真奈美ちゃん対応完璧すぎない?あいつ手名付けるの無理だと思って諦めてたのに。」


湊が翔に近づいて耳打ちする。


「凄いよね。精神の発育も良すぎるよ。」


心の底から翔は思った。そうして翔の元に舞い上がった夏樹が近づいて来る。


「おい翔!真奈美さんめっちゃ良くないか!俺あんな綺麗で良い人に会ったことねぇよ!」


興奮しているのか夏樹は早口だ。


「てかさ綺麗な女の人が言う『発育』って単語めっちゃエロくないか?お前もわかってくれるだろ?翔!」


翔はそれを聞いて心の中で溜息が漏れる。


何を言ってるんだこいつは。浮かれすぎだろ。


今の状況わかってるのか?流石に注意しなければいけないと思った。


世界の命運がかかってると自覚を持たせるために。


そうして翔は夏樹を強くにらむ。


声に乗せるのは大真面目な本音だけだ。


「・・・・・・・わかる。」


「だよな!」


男二匹がガッチリ肩を組み合った。


「翔君はマシだと思ったけどあんたもそっち側かい!もう待たなくて良いよ。真奈美ちゃん。馬鹿二匹おいてって話始めましょ?」


「そうね。まずこの学校について話すわ。二人もふざけながらで良いから話聞いといて。」


馬鹿にも真奈美は理解があった。そうして彼女はゆっくり、わかりやすく語って行く。


この学校が『斎藤実知佳』という女子生徒の心象世界であり、あの怪物たちは彼女の視点から見たクラスメイトである。


どうしてそんな風に彼女がクラスメイトを見ていたのか?


それは『斎藤実知佳』がイジメを受けていたから。


クラスメイトから逃げるように保健室やトイレに一人で居るのが彼女の学校生活だった。


それら全てが書いてある本があり、理解したまでを伝えた。


翔は話を聞いていて『もっと話してない事あるんだろうな。』


と考えたが、時間短縮の為必要な部分を厳選して喋ってるのだと理解した。


「どうして彼女の世界が雲の上にあるかは、わからないけどね。」


「心象世界って何だよ。」


夏樹の発言に湊は聞こえない声量で舌打ちした。


「夢の中ってことよ。」


「へー。そうなんだ。さんきゅー。」


間抜けな返事をする夏樹の横で翔はやや動揺した。


『違くね?すげー自然に嘘つくじゃん。』


口には出さなかった。


湊は、真奈美を見て夏樹の扱いを学んでいた。


丁寧に説明してもわかってもらえず、更に時間を失う可能性を考慮して適当に対応したのだ。


この考えは成功で夏樹も理解した気になってそれ以上の追求はしなかった。


「それで、私は一つ仮説を立てたの。もしかしたらこの学校の何処かに斎藤実知佳が居るのかもって。彼女に話を聞けば雲を払う方法を知っているかもしれない。」


「ふーん。居るかわからないけど、そう考えたのね。それで彼女は何処に居るの?」


真奈美が即座に答えず、湊を見る。


「何?見惚れた?」


「随分簡単に信じてくれるなって。」


湊が「あーそんなこと?」と軽く答える。


「もうその『信用する、しない』の話はさっき終わったよ。あんなピンポイントな解決方法出されて、それで助かったんだから信用するしかないでしょ。」


完全に協力する気を見せていた。夏樹も『俺も信用する!』と言ったので、初めて四人に協力関係が築かれた瞬間だった。


「ありがとう。彼女は二階の三年三組に居る。今いる場所は三階だから一つ下ね。」


湊がそれを聞いて『なるほど』と呟いた。


「そこまで行くのに化物が邪魔になるから、私達から情報を得て対策を考えたいって事ね。」


円滑に話が進み過ぎて翔が口を挟む隙が無い。


それが実現しているのは、湊が優秀だからだと翔が気づいた。


真奈美の言う事を理解し、即座に先を見据えられ、対応能力も優れている。


翔は夏樹が無茶ばっかやって生きてたのも(勿論本人の強さもあるだろうが)彼女がブレインとなって色々意見していたからだと思った。


「話が早くて助かるわ。優秀ね。」


真奈美も翔と同じ意見だった。


「当たり前でしょ。じゃあ色々話して行くから、気になったら質問して。」


自信満々な様子で、今度は湊が語り始めた。


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