第2話 夢の通い路 冥府魔道②
「こんばんは。遅刻無し。優秀ですね。」
本殿の中からは狩衣を纏った大学生位の青年が現れた。
『女の扱いには馴れてます』という自己紹介が似合う顔つきとワカメの様に散らした黒髪マッシュ。
そのせいで服装が全く似合っていない。まるでホストが神主のコスプレをした様な。
しかし翔は『この男が俺達を呼んだハレか。』と確信していた。
その声は自身の部屋で聞いた物と一致していたから。ハレは階段を降りて四人に近づく。
「うわイケメン・・・。なにあれ好きになっちゃいそう。」
「少女漫画に出てきそうな面してんな。少女漫画読んだこと無いけど。」
諸々感想を言い合う湊と夏樹を素通りして翔の前に立った。ハレは少し不思議そうな顔をしていた。
「なんでしょうか?」
急に目の前に立たれてそんな顔されれば翔も理由を聞かざるをえない。
「いや随分と仲良さそうに喋っているなと思いまして。良い事ですが。」
咳ばらいをしてハレが続ける。
「改めて自己紹介を。私の名前はハレと言います。たった一日だけですがどうぞよろしくお願いします。」
頭を下げてハレが続ける。
「一応皆さんに与えた情報の整理をしておきましょう。これから雲の上に行き、あの雲を打ち払うのが私の願いです。成功報酬は二十万円。ここまでが皆さんに与えた最低限の情報です。大丈夫でしょうか?」
与えられた記憶と全ての情報が一致していた。他の三人もそれは同じで全員が頷く。
「では僕としてはこのまま行って頂きたいのですが、どうしても聞きたい事とかありますか?」
ハレの言葉に
「雲を打ち払うってのがピンとこないんだけど。貴方の話に出て来た雲が作った化物を倒したら自動的に雲が晴れるの?」
「ああ、説明の仕方が悪かったですね。いいえ。怪物を倒しても雲は打ち払えません。方法は別のやり方になります。その方法は行けばわかります。」
納得行かない答えに顔をしかめて湊が再度質問する。
「は?なにそれ?意味わかんない。やり方教えてくれた方が直ぐ解決するくない?あんたは答え知ってるんでしょ?なのになんで教えないの?」
高圧的な言い方だけど的を射ている。
と
俺もその怪物を倒したら良いと勝手に考えていたがそれが違うなら、具体的な解決策が教わって無い事を意味する。
例えば『不死身の鬼の倒し方は首を特殊な剣で切るか太陽光に当てるしか無い。』
みたいな脅威に関する具体的な答えが欲しいのは確かだ。
「わかりました。話せない理由を言います」
ハレと少年少女達の周囲は熱く蒸した空気が取り囲んでいた。
それぞれ胸元部分をつまみパタパタと服を動かしたり、汗をぬぐったりしながら話を聞く準備を整える。
「理由は二つあります。一つ目は今日で雲が落ちてきます。悠長に話している時間がありません。」
それぞれが驚いたり、信じられないと言った反応をする。
「何とか抑えて時間を稼いでますが、そろそろ限界を迎えます。本来ならば今すぐにでも行ってもらいたいんです。そして二つ目は理由を話さない方が真っ直ぐ届くからです。」
「届く?誰に?」
湊が再度聞く。
「申し訳ありませんが貴方以外にも質問したい方いるそうなので後は自分の目で確かめてください。」
『納得いかないんだけど。』と愚痴る湊を無視し、手を挙げている
「危険なのはわかってるけどどれくらい?普通に死ぬのか?もしそうなら俺一人で行
くけど。」
「おい。」
夏樹の発言が引っかかり翔が咎める。
「大丈夫。報酬はわけてやるから。で、どうなんだよ?」
「そういう問題じゃ・・・」
「結論から言うとありませんね。大丈夫です。」
翔が言い返すより先にハレが先に口を開いた。
「人類を助けようと言ってる僕が、目の前の子供守れないでどうするんですか。安心してください。全力でサポートするのでそんな状況は訪れません。それでも私の想像を超えた危機があった場合は無理矢理連れ戻します。」
翔の目線で嘘をついてるようには見えなかった。夏樹も同じように感じたらしく
『あっそ。なら良いけど。』と言って引き下がった。
無理やり連れ戻すって言われても、俺たちの選択肢はdo or dieだろうが。
あんまり意味ない気もするけど…まぁ『手助けは全力でします』っていう解釈で受け取っとけば良いか。
発言にひっかかったが、翔は何も言わなかった。
「ああ。そうでした。もう一つの報酬について話すのを忘れてました。」
自分達の都合の良い事は聞きたくなるのか、ハレの発言で四人の集中力が更に増す。
「それは、君達の願い事を一つ叶える事。」
四人全員の顔つきが変わった。あまりの変わりように慌てて言葉を足す。
「夢を壊す様で申し訳ありませんが、現実的に無理なのはできませんよ?空が飛べる様になりたいとか、手からエネルギー砲出したいとか。」
「まじかー。なに叶えてもらおうかなー。」
「雲を払うのを成功してから考えれば良くね?」
盛り上がっている夏樹の独り言に冷静に翔が答えた。
「申し訳ありませんが、もう『やっぱり行きたくない』は通じません。強い言葉を使わせて頂きますが君達がこの仕事を拒否するというのは人類の生存を拒否するのと同意です。」
その言葉を聞いて翔は不安になった。社会の外に生きる自分はこの言葉にプレッシャーなど微塵も感じないが他の三人はどうなのだろうか。
しかし翔の思惑とは真逆で三人の顔を見たが『やる気満々引く気無し』と言った表情だった。ハレもそれを確認し満足していた。
「愚問みたいですね。では準備しましょう。」
『パチン』と指を鳴らすと狛犬が加えていた蝋燭の火が消え、視界が奪われた。
『何⁉』とパニックになっていたが、落ち着くのを待たず次の展開が訪れる。
足場が無くなったかのような浮遊感に襲われた。『なになになになに⁉』『んだよこれ。』とパニックになった騒ぎ声が本殿前に響いたが直ぐに聞こえなくなった。
それは四人全員に強烈な睡魔が襲い掛かったから。
「この眠気・・・部屋で感じた・・・。」
翔は眠気にあらがおうとしたが、抵抗もむなしく意識がゴリゴリ削られて行く。
「到着するまで寝ていてください。さて・・・。」
遠のく意識にハレの声が聞こえる。
「中学生に頼る事しかできないなんて。本当は僕が対処しないといけないのに・・・。不甲斐ない僕を許してください。到着してからもサポートはしますが、もう一つ・・・せめて激励だけでもさせてください。」
一呼吸おいてからハレが言う。
「明日の価値を証明しろ。」
なんだそれ。
疑問を抱く前に先に翔の意識が途切れた。
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