最終話 二週間ぶり

 二時限目が終わり、今日も依岡よりおかくんは来そうにありません。


「…はぁ」


「…ねぇ?憂希美ゆきみ大丈夫かな?」

「んー?ダメじゃん?たまちゃん来ないんだもん」

「どうしたんだろ珠央のやつもう二週間も来てないよ」

「私たちが茶化したせいかな…」

「な⁉︎そ、そんなわけ………あるかも…」


 突然乙寧おとねが抱きついてきた。


「うううぅ…憂希美いいぃ‼︎」

「うわっ⁉︎お、乙寧どうしたの⁉︎」

「ごめんね私たちのせいで珠ちゃんが!」

「え?ち、違うと思うよ?」


 依岡くんが来なすぎて二人が私の心配をするようになってしまったみたい。


「でも本当にどうしたんだろう」

「色々あるんだよきっと」

「二週間も来なくなる⁉︎」


 何かあったとしたら、それは絶対家との、夏帆なつほさんとのことだろう。


「きっと忙しいんだよ」

「ねぇ憂希美!珠ちゃんの家行こうよ!絶対なんかあっ…」

「大丈夫。私たちはいつも通り過ごそう?」

「憂希美…」


 依岡くんが来なくなって二週間か…。

 彼はもう、学校には来ないかもしれない。

 一緒にいようって決めたのに、会えないんじゃ一緒にいれないよ。

 でももう、家行ったら迷惑だよね。

 夏帆さん、いるし。


「……」


 クラスメイトの男の子たちが突然大きな声を上げる。


「おいっ!珠央たまお来たぞ!」

「うそっ?久々じゃん」

「珠ちゃ〜ん!」


「…えっ」


 みんなの声がする方に視線を向けると、そこには依岡くんの姿があった。


「より…おか、くん………」

「憂希美!やったじゃん!」

「珠ちゃーーん!おっそいぞー!」


 久しぶりに戻ってきた彼にみんな集まって声をかけている。

 しばらく見てなかったその光景を見て、また、な、涙が………。


「悪ぃ、ちょっと家でごたついてた」

「どうしたんだよ一体」

「あー、まあ、家庭の事情だ」

「なんだよそれ〜」

「お、おい白澤泣いてんぞ⁉︎」

「白澤さん⁉︎」


 何故か涙を流す私にクラスメイトの人たちは注目する。

 乙寧と弥子やこが依岡くんに発破をかけていた。


「珠ちゃん。憂希美に言うことあるんじゃない?」

「そうだよ、アンタのことずっと待ってたんだから」


 依岡くんは少し困った風だったけど、こっちに近寄って目線を合わせてくれる。


「…白澤」

「…よりおがぐん…」

「なんで泣いてんだよ」

「だっで…もう来ないど思っで…」

「そんなこと言ってねえだろ」

「だっで▲※▽○△▼※○‼︎‼︎」

「あ?何…」

「だっ、で…なづほさんどけっごんずるって…」

「俺がそんなのいつ言ったよ」

「許嫁は□▼◎※▲△※□‼︎‼︎」

「あーもううるせえな。再来かよ」


 依岡くんが来てくれたことが嬉しくて、その姿が見れただけでも嬉しくて、どんどん胸の辺りがじわっと熱くなる。

 依岡くんはこんな意味不明な私もなだめてくれる。

 ただでさえ依岡くんは目立っていたのに、私が騒いでしまったからさらに注目の的だ。


「おい珠ちゃん!彼女泣かせんなよ〜!」

「よっ!カップル誕生!」

「か、彼女じゃねえよ…」


 依岡くんも珍しくバツが悪そうに困っている。

 こんなに会えなかったんだもん、困らせてもいいよね。


 依岡くんが開き直ったように私に問いかける。


「なあ、白澤。今日時間あるか?」

「…え?」

「どっち?」

「あ、ある…」

「放課後どおなつ屋な」

「えっ⁉︎う、うん…!でもどうして…?」

「無性に甘いもん食べたい。白澤があんなにドーナツ持ってきたからいろんなの食べたくなった」

「へ?へへ…何それっ…依岡くんカワイイ!」


 もちろん断る理由もなく、私は承諾する。


「いこう、たくさん食べよ!」


 クラスメート全員に見守られながら放課後の約束を取り付けると…。


「あのーお二人さん。みんな見てるんだけど」

「イチャイチャすんのは放課後にしてもらっていいすか?」

「もうダメだ。二人の世界だ」


 次の授業の先生が大きな声で号令をかける。

 それをきっかけにみんながバタバタと席に戻る。


「はいみんな座って。もう授業始まりますから」

「げっ!先生!」


 そんな中、依岡くんが前の席に落ち着いて座る。

 しばらく誰もいなかった席に、依岡くんがいる。


「白澤」

「…な、なんでしょう」

「これ、忘れ物」

「?」


 依岡くんから渡されたのは、いつかになくしたお姉ちゃんにもらったシュシュ。


「えっ…これ…!」

「悪いな、夏帆さんのこと。でももう、考えなくて良くなったから」

「どういう、こと?」

「婚約解消した」

「えっ⁉︎」


 こここ、婚約解消⁉︎

 私が叩かれたあの日から一体何が…。


「ま、そういうことだから」

「あ…うん…あ、シュシュ、ありが、とう」

「ああ」


 前を向いた依岡くん。

 でもすぐに振り返って、私に一言。


「白澤」

「えっ、な、なに?」



「俺と付き合って」



「………へ?」


 一度切り替わった真面目な空気がまたも一変。

 教室がざわついたと思ったらすぐに大騒ぎ。


 依岡くんといるとビックリするようなことばっかり。

 衝撃の連続に、私の心臓は耐えられません。

 この胸のドキドキもピークを迎え、今にも爆発しそうです…。

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