第39話 蒼賛と紅鎮

 その晩、珠央の父龍亮りゅうすけ珠央たまおを呼び出した。


「珠央」

「何?父さん」

「来い。紅鎮こうちんと話がある」

「…うん」



 紅鎮とは紅鎮連合会と言われる、夏帆なつほの父天翔てんしょうが会長を務めるこれまたヤクザだ。


「オイ珠央ォ!テメェの意見を聞かせてみやがれ!ウチの娘泣かすたぁ組の存続に関わってくるぜ⁉︎」


 天翔がすごい剣幕で畳み掛ける。


「待ってください。夏帆さんの意見を聞いてません」

「うるせェ!意見も理由も関係ねェんだよ!娘が泣いた、つまりお前が悪ィ!そうに決まってんだろ!」


 話が通じないと思い、珠央は本題を切り出す。


「…天翔さん。俺は夏帆さんと婚約する気はありません」

「何ィ⁉︎どういうつもりだテメェ、蒼賛そうさんを継がねェって、そう言ってんのか⁉︎」

「組を継ぐのに何故夏帆さんと婚約しなければならないんですか?」

「テメェは紅鎮と蒼賛の関係をわかってねェようだな?紅鎮がなくなれば蒼賛はなくなる。蒼賛がなくなれば紅鎮はなくなる。俺らの組は二つで一つ、一心同体なんだぜ⁉︎」

「それはわかってます。だからといって何故夏帆さんと婚約しなければならないんですか、と聞いてるんです」

「あぁ…?夏帆じゃ満足出来ねェってのか?」

「彼女とやっていくのは無理です。あんなことされて、俺のプライドは傷だらけです」

「テメェまだそんな過去を引きずってやがんのか?男ならヤった女を責任持って守りやがれ!変なプライドばっかり持ちやがって、女々しいやっちゃな!」


 すると黙っていた珠央の父龍亮が立ち上がる。


「聞き捨てならねえな。うちの珠央が男じゃねえって言うのか?」

「あぁそうだ」

「その過去を作ったのは誰だ?プライドを傷つけられた男の、珠央の気持ちがテメェにわかるってのか?」

「だからそんな過去は水に流せって言って…」

だったら今頃珠央は夏帆と上手くいってらあ!"お前が娘にやらせたこと"は珠央にとっては一生の屈辱だ!テメェも男ならそれが分からねえか⁉︎」

「ぐ…俺がやらせたって言いてェのか」

「隠し通せると思ってたのか。滑稽こっけいだな。俺は珠央が告白してくれる時を待っていた。珠央、よく言ってくれたな。お前は男だ」

「親父…」

「珠央と夏帆が今の今までぎこちなく過ごしていたのは知っていた。俺らの顔を立てるためにな。だがそれも今日で終わりだ。俺らの都合で下の世代同士を無理に引き合わせることはねえ。コイツらの自由を奪うこたあねえ。それに…」


 龍亮を保っていた理性がプツンと切れ本音のようなものを漏らす。


「珠央の覚悟を見て見ぬフリをするお前には嫌気が差してきたところだ」

「えっ、お、おい、親父!やめろ!紅鎮と関係を断つ必要はねぇ!俺と夏帆さんの問題なんだ!」

「お前らの問題は組の問題。珠央の覚悟をわからねえコイツをのさばらせるつもりは俺にはない」

「な、何をぉ…!いいだろう決闘だ!潰してやる蒼賛んん‼︎」


 ずっと黙っている夏帆が声をあげる。


「いいよ、パパ、ごめん」

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