最終章 ゆるゆる生きるのは卒業だ

第38話 思い出のお店

 依岡よりおかくんはしばらく学校に来てない。

 学校に来る意味がないって言ってた。それこそ夏帆なつほさんと付き合ってしまった今、組を継ぐことになって、もう本当に来る意味はないのかもしれない。


 夏帆さんに叩かれたあの日から、依岡くんとは連絡を取っていない。

 依岡くんからも連絡は来ない。


 …会いたいな。


「……」


 依岡くんと思い出のどおなつ屋。

 少し寄っていこうかな。


「いらっしゃいませ〜」


「……」


 これは私が最初に食べて、依岡くんが美味しそうって言ってくれたやつ。


「……」


 これは依岡くんが好きな、チョコたっぷりですごい甘いやつ。


「……」


 これは期間限定に弱い依岡くんが、今度食べようって言ってたやつ。


「…依岡くん家、行こう」



 私はお土産のドーナツを持って、依岡くんの家を訪ねた。

 インターホンを鳴らすといつも通りひびきさんが門から現れる。


「あ、栗色の嬢ちゃん。珠央たまおさんなら今日は出かけてるぜ」

「あ、大丈夫です…これだけ渡していただけると…」

「ん、承知したぜ」


 今日も夏帆さんと出かけてるのかな。

 日曜日だもん。きっとまたデートに行って…。

 ……。


「泣いちゃダメだ」



 響が珠央と夏帆の帰りを出迎える。

 夏帆は満足気に響に報告する。


「おかえりなさい珠央さん、夏帆さん」

「ただいま響!今日もすっごく楽しかったわ!」

「そりゃ良かったです。珠央さん、お土産ですぜ」

「お土産?」


 憂希美ゆきみから預かったドーナツを珠央に手渡す。


「どおなつ?ですかね?栗色の嬢ちゃんが渡しといてほしいって」

「…!」

「へぇ〜私たちのためにデザートを用意してくれたのね。食べましょう、珠央♪」

「…白澤」

「あら、可愛い!げっ、でもすっごいわね、甘いやつばっかり」

「夏帆さん」

「なぁに?」

「それ、食べないで。俺にくれたやつだから」

「そんなこと言わないで一緒に食べ…」


 珠央はまた不機嫌そうに夏帆をとがめる。


「夏帆さん」

「………何よ!そんなにあの子がいいわけ⁉︎」

「別になんも言ってないだろ」

「どうしてあなたはいつも、私のことを足蹴りにするの⁉︎私はこんなにあなたのことが好きなのに!」

「好きだったら何してもいいのか」

「…ッ!」


 夏帆は怒り、ドーナツの箱を地面に叩きつけた。


「あっ、夏帆さん!そりゃあひどいですぜ…」

「うるさい!やっぱりパパに言うわ!気持ちが離れたらそれだけで浮気よ!」

「俺はアンタを好きになったことはない」

「どうなっても知らないわよ」


 そうして夏帆はカッカとヒールを鳴らしてせわしなく帰っていった。


「………珠央さん」

「…ごめん、床汚して。食べるよ」

「えっ!いやいや!片付けとくんで大丈夫ですぜ」

「せっかく貰ったんだ、食べなきゃダメだ」

「珠央さん…!お、俺にも食べさせてくだせぇ」

「ふっ…」

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