第35話 負けないんだから

 それからと言うもの、私はしつこいくらい依岡よりおかくんの家に行ったり、LIMEライムを送ったりした。

 不思議なことに連絡はいつも通り返ってくるし、家に行けばたまに会える。

 夏帆なつほさんと付き合い始めたのに、前と何も変わらないまま話が出来た。

 依岡くんは学校に来ないけど、私は嬉しかった。


 今日は撮影の日。

 槙野まきのさんが私の明るい雰囲気を見て嬉しそうに写真を撮る。


「…とても良いわね」

「そうですか?」

「ええ、なんだかとても活き活きしてるわ。明るい気持ちがスナップにも表れてる」

「それは、良かったです!えへ…」

「何かいい事でもあったの?」

「えへへ…はい」

「好きな子でも出来た?」

「すごい!何でわかるんですか?」

「恋する乙女の顔をしているからよ。憂希美ゆきみちゃん、今とても可愛いわ」

「ありがとうございます…!」


 撮影にはもうすっかり慣れたし、知らないこともたくさん知れた。

 だから専属モデルの話も少し現実味を帯びてきている。

 

「是非その好きな子の話、おばさんに聞かせて頂戴」

「ま、槙野さんはおばさんじゃないですよ⁉︎」

「やあね、こんな若い子ばっかの職場じゃおばさん同然よ。で、どんな子なの?」

「…と、普段はおとなしいんですけど意外と喧嘩っ早くて、意地悪なときもあるけど本当は優しくて…あとバスケとボウリングがすっごく上手い!」

「面白い子ね」

「はい!彼のこと考えると、すごく、楽しくなって…」

「素敵な恋をしてるのね。憂希美ちゃんならきっと上手くいくわ」


 恋愛は難しいけど、楽しい。

 依岡くんのことを考えると、頑張らなきゃって気持ちになる。


「槙野さんは、お相手とか…あ、馬原まはらさんは?」

「え?…あの人はただの仕事のパートナーよ。同じ事務所を任されているだけの。それにあの人は結婚してるわ」

「あ、そうだったんですか?」

「意外と、大層な遊び人だけどね」

「はは…」


 全然意外でもない。

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