第9話 失礼なヒーロー

「………大丈夫だった?」

「あっ、えっと、ぶ、無事…です」

「良かった」

「でも依岡よりおかくん」

「うん」

「ぼ、暴力は良くないと思う!」

「正当防衛っしょ。てかなんで名前知ってんの?」

「同じクラスだよ!」

「そうだっけ………ん?」

「あっ!」


 さっき見せられた雑誌の切り抜きが地面に落ちていた。

 それを拾い上げようとする依岡くん。

 依岡くんに見られたくなくて、つい。


「だめっ‼︎」


 依岡くんを…ど、どついてしまいました…。


「…いった」

「あ…ご、ごめんなさい…つい…」

「暴力は良くないと思うわ」

「ごめんなさいごめんなさい…」


 結局雑誌の切り抜きは見られるし。


「これ………なるほどね」


 間が悪く予鈴が鳴る。


「「あっ」」

「早くいこ。えーっと…」

白澤しらさわです…」

「本当に同じクラス?全然見覚え無いんだけど」

「失礼だなぁ!」


 本当に失礼しちゃうわ。


―――


「後ろの席なのに‼︎」

「悪かったって」

「ずーっといたのに‼︎」

「わかったって、うるせえな」


 教室に戻るなり依岡くんのルーズさにビックリさせられる。


「確かにこのクラスになってまだ三ヶ月も経ってないけど、近くの人くらい覚えてよ!」

「わかったわかった。モデルの白澤ね」

「ちょっ!あの、よ、依岡くん…」

「何?」

「あの…あんまり周りの人には…」

「隠しとけって?」

「う、うん…」

「…じゃあ

「うる…?」

「"うるさい白澤"、略してうるさわ」

「なにそれ⁉︎もっとマシなのないの⁉︎」


 騒ぐ私に先生が釘を刺す。


「白澤〜うるさいぞ」


 依岡くんがニヤッと笑い小馬鹿にしたような声で言った。


「合ってんじゃん」

「〜〜‼︎」


 依岡くんって意地悪だな。

 …でも助けてくれたし。

 …あ。ありがとうって、言えてない。

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