第7話 拓斗にお仕置きしちゃう

<朝だ。今日は月曜日だから、拓斗は会社に行っちゃうんだね>


「拓斗、髪をとかしてくれて、ありがとう! 拓斗に見つめられたり、触られたりしている時が一番幸せです。でも、今日から会社ですよね。寂しいな。寄り道なんかしないで、早く帰ってきて下さいね」


 その日の夕方。

「拓斗! 会社からまっすぐ帰ってきてくれたんですね。嬉しいな。夜はまた、一緒に寝ましょうね」

 そんな風に、数日が過ぎていった。


 次の土曜日の朝。

 千尋に服を着せてくれた拓斗は、クローゼットから持ってきた空箱に、千尋を入れようとしている。


「え? 何? 拓斗、何するんですか? 箱に入れちゃうの? イヤ! 千尋、暗くて狭いところはダメなんです、絶対に。そんな所にいたら、死んじゃいます! ここに来る時だって、死ぬ思いだったんですから。あんなに怖い目には、二度と遭いたくないです」


 拓斗は、千尋の言葉に気が付かないらしい。箱の中に横たえた千尋の服を整えている。


「モー。イヤと言ったらイヤ! イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ――」

 千尋は手足をバタつかせたけれど、電動じゃないから、動きはしなかった。


「イヤ、箱の中は、絶対にイヤ! 拓斗、早く箱から出してー!」


<あ! やっと拓斗に伝わったらしい。箱から出して、これまでのように棚のチェアーに座らせてくれた。拓斗、苦笑い浮かべてる。くー。拓斗のやつ……>


「拓斗! 死ぬかと思ったじゃないですか。千尋、閉所恐怖症なんですからね。もう二度と、こんなことしないで下さい。他の子を飾ってもいいけど、私を箱に仕舞っちゃダメ! 2体並べて飾ればいいでしょ?」


「そうだ、千尋にひどいことしようとした拓斗に、お仕置きしなくちゃ。お仕置きは、うーん……。考えますから、ちょっと待って下さい」


「はい。お仕置き、決まりました。新しいドレス買って下さい! 今着ている黒いドレスは、ママの手作りじゃなくて、既製品なんです。拓斗にはドレス作るの無理でしょうから、既製品でいいです。色はピンクかな。裾が釣り鐘みたいに広がっていて、ウエストを絞って、後ろで大きなリボンにするのがいいな」


「でも、待って下さい。メイド服もいいかな。フリルが一杯付いたやつ。キャップとカフスも忘れずにね。どっちにしようかな。千尋、迷う……。こうなったら両方ですね。お願いしまーす!」


 その時、ドアのチャイムが鳴った。ドアの外から、「拓斗、母さんだよ。ドア、開けておくれ」という声が聞こえてきた。


<拓斗のお母さん? それにしても、拓斗、ずいぶん慌ててる。あれ? やっぱり千尋を箱に入れるのね>


「どうしたんですか、そんなに慌てて。千尋、箱に入るのはイヤだって何回も言いましたよね。お母さんが来たことは分かりますけど、なぜ千尋を隠すんですか? お母さんに会わせて下さい。え? 少しの辛抱だから我慢してくれ? もう……。分かりましたから、なるべく早く出して下さいね」

 

<いやだなー。ここはクローゼットの棚の上ね>

 クローゼットの引き戸が締まる、「ドン」という音が響いた。


 



 

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