第5話 美鈴のないしょ話
最後に千尋の前に現れた現代風の市松人形は、伝統的な市松人形に比べてプロポーションが大人びていて、顔立ちも写実的だ。
「こんにちは! きょう来た千尋です。よろしくお願いします。あなたのお名前は?
<千尋、着物のことはよく知らないけど、この子の振袖は素晴らしい。濃い紫の地に、色々な色の葉っぱがあしらわれている。形はカエデのようだけど、ところどころに、
「お着物が素晴らしいですね! 私の服は黒一色なので、羨ましいな」
<
「え! 私の服も素敵ですか? ありがとう。頭に被っているもの? これは、ゴスロリ風ボンネットです。もちろん、外すこともできますよ」
<この子、褒めてくれた! 今までに出てきた中では一番の美人さんだけど、それを鼻にかけてお高く留まってはいないようね。よかった。仲良く出来そう>
「美鈴さん、腰やひざ、足首の関節を曲げることが出来るんですか! さすがは、現代風市松人形ですね。へー。プロ作家が作ったんだ」
<美鈴さんの着物、よく見ると少しだけ古びているようね。きっと中古品なんだろうな。でも、いったい拓斗は、この子をいくらで落札したんだろう……。ダメダメ、そんなこと考ちゃ。落札価格と人形の価値は別なんだから>
その時、拓斗は2体の人形を残したまま、部屋から出て行った。たぶんトイレだろう。
「拓斗、どこかに行っちゃったね。え? 拓斗のこと、教えてくれるの? 聞きたい!」
「拓斗は、夢中になりやすいけど、
「人形は普段、一体ずつ箱に入れられて、クローゼットの中の棚にしまわれてるのね? その中で、一番のお気に入りの子だけ出してもらえて、机の前の棚に飾られるんだ。へー。そんなことしないで、みんな飾ればいいのに」
「そうはできない理由があるの? それは? 2~3か月に一度くらい、拓斗のお母さんがここを訪ねて来るのね? それも、突然! 拓斗は、お母さんには人形集めの趣味を内緒にしてるんだ。急に来られた時、一体だけならすぐに隠せるってわけね。別に、内緒にしなくてもいいのにね」
「新しく来たばかりのお人形は、何日か続けて棚に飾られることが多いけど、そのうち、他の子と取り替えられちゃうのね? 中には、箱を開けて一回手に取っただけで、また箱に戻されて、そのままの子もいるの! それは可哀そう。あ! 拓斗が戻ってきたよ。大事なお話、ありがとうね、美鈴さん」
<箱に戻されて、そのままずっと出してもらえなかったらどうしよう? そんなの絶対、いや!>
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