幼馴染は余命半年
霜月 海
第1話
SS 愛しい人、すれ違い
「あなたは余命がおよそ半年です。残された時間を悔いのないように過ごしてください。」
医者のその言葉によって崩壊した関係があった。
とある一組の男女がいた。
その2人は幼馴染で仲が良く、高校生になって付き合い始めた。
周りにいるカップルとは違い、結婚まで視野に入れた付き合いだ。
男の名前は真島武尊(まじまたける)
女の名前は百瀬華(ももせはな)といった。
旭は生まれつき身体が弱く、よく寝込む子だった。
反対に武尊は活発で家の中で遊ぶよりも外で遊ぶ方が好きな子だった。
2人は高校でも有名な仲良しカップルだった。
ある日、華は母親に呼び出され病院に行った。
始め、華はいつもの健康診断だと思っていた。
しかし、健康診断の全てが終わってからしばらくして、彼女はとある部屋に連れて行かれた。
そこで、華は医者から、余命半年と宣告を受けた。
目の前が真っ暗になった華は家に帰って一つの決断をした。
それは、「武尊に嫌われよう。」というもの。
そして、母親に余命の事を武尊とその家族に伝えないように釘を刺した。
その頃、武尊は同じ病院に自宅にいた時の急な動悸と眩暈で病院を受診してきたところであった。
念のためではあったが検査入院ということになったが、武尊は華に心配をかけまいと華には伝えなかった。
土日2日間の綿密な検査の結果、武尊は余命半年と医者から宣告された。
そして、武尊も華と同じ決断をする。
「華から嫌われよう。」と。
そして武尊は華と華の家族に余命の事を伝え内容に釘を刺した。
武尊が退院した次の日、華は放課後に武尊を呼び出した。
「私たち、別れない?」
「そうだな。俺もそう思ってた。」
武尊は華から別れを告げられるとは思っておらず、華もまた別れをすんなりと受け入れて武尊と別れられると思っておらず、互いは互いを傷つけ合う結果となった。
2人の態度が今までのものからそっけないを通り越して険悪な態度に変わっていっていることに周囲の人間はとにかく驚いた。
高校でも有名な仲良くカップルだったこともあり、2人の態度の変わりようには周囲は目を見張った。
2人はどんどんと話さなくなり、それに比例して華の周りには我こそは華ちゃんの次の彼氏にと意気込む男子たちが、武尊の周りには私こそは武尊くんの次の彼女にと意気込む女子たちが群がった。
華は校内でも1、2を争う美人であって武尊はスポーツ万能な明るい性格の持ち主と2人共が人気者だったため2人は他の人から常時アピールをくらっていた。
しかし、華の頭の中には武尊しかおらず。また武尊の頭の中にも華のことしかなかった。
そのため、どれだけ熱烈なアプローチを受けても2人はやんわりと断り続けていた。
周囲は疎遠になった理由を探るも、2人はただ2人で話して別れることになったとしか言わなかった。
2人のことを周りがとやかく言うこともすっかりなくなったある日、
武尊は病院の検診の後歩いて家まで帰宅していた。
帰り道の商店街である1人の少女を見かけた。
華だ。
華はナンパされているのか数人の男達に囲まれていた。
咄嗟に武尊は華に駆け寄り、華を背に庇い、絡んでいた男達を睨み付ける。
そのまま武尊は男共を無言で睨み付けて追い払い、華と2人で公園まで歩く。
公園のベンチに少し間を空けて座り無言の時間が流れる。
先に口を開いたのは武尊だった。
「華、一つだけ聞いていいか?」
武尊が話しかけた瞬間、華の肩がビクッと跳ねる。
「な、何?」
「なんで、いきなり別れようって言って来たんだ?」
「そ、れは、」
言い淀む華に武尊はさらに畳み掛ける。
「もう、俺が嫌いになったのか?俺はかなりいい関係が築けてたと思ってる。最後になんで別れを切り出したのか、どこがいけなかったのか教えてほしい。」
華は頭では嫌われようとしたいと思っているのにその言葉を口から出すことはできなかった。
武尊の質問に質問で返した。
「武尊だって、私が別れようって言ってすぐ“うん”って言ったじゃん。」
その2つの問いは2人にとってずっと気になっていたものだった。
そして、2人にとって、最も聞かれたくない問いでもあった。
「それは、華が別れようって言ったから。」
その言葉を言った時に武尊が鼻を小指で掻いていたのを華は見逃さなかった。
それは武尊が嘘をついている時の昔からの癖だった。小さい頃からずっと一緒にいる華はそれを知っており、すぐさま畳み掛ける。
「嘘つき。」
「は?」
「それが嘘なことくらい、幼馴染の私にはわかるし。伊達に付き合ってたわけじゃないもん。」
さすがと言わざるを得ないこの状況から逃げるべく武尊は話を必死で逸らす。
「そんなことより、話を逸らすなよ。今は俺が質問してる番だ。」
「どこ、って言われても。」
言い訳を考える時や、何かを熟考している時、華は髪の先をいじる癖がある。
その癖を見て、武尊は華が嘘を考えているのだろうと思った。
「嘘はいい。どこがいけなかったのか本音で教えてくれ。」
華は少し下を向いて俯く。
華は、余命のことを残して、全てを武尊に話すことを決めた。
「私、まだなの」
「まだ?」
「治ってなかったの。」
「え?」
「小さい頃の病気がまだ治ってなかったの!」
武尊は驚いた。しかし、それと同時に疑問でもあった。病気のことなら相談してくれてもいいだろうと。
武尊は華が病弱であることをよく知っている。それなのに、なぜ相談してくれなかったのか。
そこで、ひとつの仮説に辿り着く。
華は、命に関わるほどに、病気がもう進行してしまっている。
「華、どこまで進んでるんだ?」
「……言えない」
「言えないくらいまで進んでるのか?」
「…………。」
華は、下を向いてグッと口を閉ざす。
そんな華の肩を掴んで武尊は聞く。
「華‼︎頼む、教えてくれ。」
「…………あと、一ヵ月。」
ぽろぽろと涙を流しながら華は武尊に告白する。
「あと、一ヵ月しか、生きられない。」
「話してくれてありがとう。」
しばらくの沈黙ののち、武尊は口を開く。
「今から家、来てくれないか?見せなきゃいけないものがある。」
そうして、武尊は華を自分の部屋へと連れてきて、あるものを机から出して華に渡す。
それは五ヵ月前、武尊が余命半年と宣告された時の診断書だった。
「これは?」
「五ヵ月前、僕が病院にかかった時の診断書だよ。」
手渡された診断書をじっと見つめる華。
そこに武尊が言葉を放つ。
「回復の見込みはない。薬とか、特効薬もない。余命で言うと。あと一ヵ月。」
その言葉を聞いた華は目を見開いていた。
「これが、俺が華と別れた理由。死ぬ時に華に悲しい顔をさせたくなかった。」
「プッ、あはははは。」
「なんで笑うんだよ。」
「いや、私達って似たもの同士だなーと思って。」
「そうだな。」
「お互いがお互いを悲しませたくないからって、自分に嘘ついて、結局、2人とも同じだなんて、なんか、バカみたいだね。」
「ああ、本当に」
「ところで、これからだけど、もう一回付き合わない?」
「え?」
「いや、なんか、2人共死ぬなら、もういっそ開き直って付き合えないかなって。後腐れもないし。」
「私が断るとでも思ってるのかなあ。武尊は」
その日、華は武尊の家に泊まった。
2人はすれ違った時間を取り戻すかのように一緒にいて離れなかった。そのまま以前の仲の良さを取り戻した。
そのおかげで多くの男女が嫉妬に狂ったのは、また別のお話。
幼馴染は余命半年 霜月 海 @035
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