第10話 果実の楽園①
てことでやってきました果実の楽園。
見た目は普通の果樹園。されど中は幻惑や状態異常のオンパレードだ。果樹園の周りは明らかに苺狩りをしに来たのではない風貌の探索者たちがたむろしている。今日はこのダンジョンに行くことを聖に言っておいたので朝早くから起こしてくれた。けど、起こし方がベッドから転がして床に落とすという方法だったのがやや不満でした。わざわざ、朝無っちゃ早く起きて俺を起こしてくれる聖ちゃん優しいなぁ。なんだかんだ言いながらお兄ちゃんのこと大好きだよね~。
ランク9に行くということで今回はさすがに装備してきた。と言っても中級から上級探索者向けの市販品だが。そこそこのダンジョン素材使ってるし私服よりいいだろう。特性の長袖に長ズボン。それに黒の皮鎧にブーツ、それに紺のコートと。普通だな。
さすが長谷川さんだ。普通だったらそう次の日に用意できないとは思うけどあっさりと申請を済ませてくれた。なんだか私の分も頼むぞっていう所長の幻影が見える気がするけど目を背けておく。
果実の楽園は栃木県の某所にある。ランク9なだけあって基本的に場所は公表されてない。ここに来れる人物は組合職員と申請をきちんと通して許可を得た探索者だけ。今、俺と一緒に順番を待っている周りの探索者たちも基本的に上級探索者の猛者たちだ。ちらほら知り合いの先輩にでも連れてきてもらったのか中級らしき人も見かけるがその人たちはここに適性がある人達だろう。
果実の楽園。その文字通りここで手に入る果実たちはまさに天上の楽園で手に入るものかのように美味である。ここの果実を使えるかどうかだけでそのレストランの価値が大きく変わるといわれるほど高級なダンジョン食材である。基本的にダンジョン食材店などに出回ることは無く、組合を通して個人的に探索者と専属契約して定期的にこのダンジョンの食材を取ってきてもらうことがほとんどだ。
しかし、ここの食材は今まで食べてきた果実の価値観が変わりかねないほど美味しい、いや美味しすぎる。かつてはここの食材に取りつかれ中毒気味になったものも居るぐらいだ。これもこのダンジョンがランク9に割り振られる理由だったりする。
「現在、苺の価格が高騰しております。採取依頼も多数来ておりますので余裕がある方はぜひお願いします」
入口の近くで職員の人が呼び掛けている。専属で依頼を受けたわけではない探索者はその成果を組合に預ける。そして、組合主催の競り落としが毎週末に行われそこで様々なレストラン等々の手に渡るというわけだ。お金は仲介料として組合が少々持っていくが自分で交渉して契約してとかするより断然楽。
それに組合が変なことをするわけないという安心感はもちろんあるし、一部取られても痛くも痒くもないほどの収入が見込めるのだ。それほどここのダンジョンの食材は人気が高いのだ。上手くここで単価が高い果物を大量に取ってくることができれば正に一獲千金。探索者からしたら宝の山より価値が高いダンジョンな訳だ。
自分の順番を待っていると近くのガタイのいいあんちゃんに声をかけられた。
「お、お前さんもこのダンジョンで一獲千金の夢見てきたのか?」
「……頼まれたんだ」
「お、そうか。ここの果実は人気だしなぁ、金持ちの中にはここの果実に大金ポンと積むやつざらに居るかr」
「妹に」
「え?あ、おう、そうか」
妹に?うーんとうなっている探索者をよく見てみれば、後ろに中級だろうか後輩か連れてきたであろう探索者が居る。
「まぁ、ともかく気をつけろよ。新顔だがソロで来てるってことは上級だろうから大丈夫だろうけど、ここはともかく他のダンジョンと毛色が違うからな」
列が進むのに合わせて、そう言いながらガタイのいいあんちゃんは先に行った。きっとこのダンジョンによく潜っているのだろう。普段見ない顔の俺を見て声をかけてくれたのだろうか。見た目が装備をしているとはいえ金髪でガタイのいいよく焼けたヤンキーだからな……。後ろの後輩君たちがチンピr……取り巻きにしか見えん。
人は見かけによらないってこのことだなぁ。
そうこうしていると自分の番が近づいてくる。外は生垣で囲まれていて見た目はただの果樹園。中をのぞくとやたらと葉っぱの多いブドウの木が並んでいるみたいだ。けどこれも幻覚。実際は広くて過酷で、妨害たくさんの自然の恐怖の塊ときた。
「三日間までが基本的な探索期間とさせていただきます。三日を過ぎた時点で捜索対象とさせていただき、二週間たって見つからない場合死亡されたものとさせていただきます」
これは最初の契約書にあったとおり。おっかないねぇ、レベル9。おー、こわいこわい。元より俺は聖のために来ただけだしそんなに大量にとる必要もないから一日で帰るつもりだけどな。そのためにこんな朝から来ているのだ。
最終確認を済ませたらいざ中へ。すると、いきなり空間が白く歪み目の前に森が現れる。後ろには入口、そして外からもあった生垣。しかし、その生け垣はずっと横に伸びておりその端は視認できない。果実が欲しけりゃどうぞ中までってこったろ。さてと、行きますか。
森の中を歩いていく。見た目は普通の森だがそこらに生えてるキノコなどはれっきとしたダンジョン産。食べると現状のクスリよりひどい幻覚、幻聴などに半端ない中毒性というNGのオンパレード。
そんな明らかに世に出してはいけなさそうなものがゴロゴロあるのでこのダンジョン全体が様々な状態異常をもたらしてくる。方向感覚などもその一つというわけで今からまっすぐ後ろ振り返って帰っても実は違うなんてことが誰でも起きる。ほんとここ変なモンスターとかいなくてよかったな。
居ても食人植物ぐらいだもんな、ハハハ。
早く目当てのもの採取して早く帰ろ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます