第6話 これはホームラン、文句言うな


「おい、この下の階層は王鶏が縄張り作ってるから気をつけろ」


「おう、ありがとう」


 いよいよお目当ての階層への階段を下っていると探索帰りであろう一行とすれ違う。リーダーらしき強面のおっさんが態々声をかけてくれた。

 俺の装備を見て心配になって声をかけてくれたのかもしれない。すべての探索者がこのおっさんぐらい優しかったらいいのに。


「着いたぞー!」


 つい両手を挙げて叫んでしまった。22にもなって何やってるんだ俺は……恥ずかしすぎだろ。誰も見ていないからセーフ、ノーカンノーカン。

 さっさと王鶏探そう、そうしよう。




 王鶏はその名の通り鶏の王様なのだ。正確には卵を産むので女王なのだろうけどその生態がすべて分かる前に名前をつけてしまったのだからしょうがない。ダンジョンのモンスターは探索者からの報告、もしくは組合職員が直接確認してリストアップされていく。基本的には組合がモンスターに名前をつける。しかし、レアな特殊固体や新種には第一発見者の探索者が命名可能らしい。たまにくそふざけた名前のモンスターがいたりするのはこれが理由だ。


 話を戻そう、王鶏が王と呼ばれる理由は複数ある。

 まずはその個体の大きさだ。とにかくでかい、小型車ぐらいのでかさはある。もはや鶏じゃなくて別種の鳥だろと突っ込みたくなるけど見た目がまんま鶏なのだからしょうがない。まじでそのままでかくしただけなのだ

 そして、王と言われるのは王鶏本体だけが理由じゃない。その周りが問題。近衛鶏という取り巻きがいるのだ。一羽一羽は気にしなくていい。やたらくちばしと爪が鋭いからそれにさえ気をつけたらいい。ただ数が多いのだ、やたら多い。そして、厄介なことに王鶏の鳴き声に合わせて連携を取ってくる。鶏風情が調子に乗っていやがる。


 そうこうしているうちに依頼書にあった巣のポイントに近づいてきた。この42階層は草原エリアの中でもやたらと広くてドーム何個分とかより何区と同じくらいと言った方が分かりやすいらしい。広すぎだろ、どこにその空間あるんだ。ダンジョンとはやはり不思議だな。


「その恩恵にあずかってるんだし、文句とかはないけどねっ……と」


 ちょっと小山のように高くなっていた部分を上り終える。その丘?の上から周りを見渡す。


「お、居た居た。あぁー、巣に居座ってんな。卵だけ持っていくのはさすがに無理か」


 ま、もともと討伐依頼受けているし戦わないという選択肢は別に無かったのだが楽できるとこは楽したい。

 やや窪んで盆地になっているようなとこに巣を作りそいつは居座っていた。巣の中には大量の卵がちらりと見える。周りの取り巻きも居るには居るがあまり多くない。仲間さらに呼ばれる前にやっちゃうか……。


「ふぅ……よし」


 これからモンスターと死闘を繰り広げるはずなのにまるで何も気負ってないように奏は丘を下っていく。いや、実際に気負っていないのだろう。ランク7のダンジョンに真面な装備をする必要がないほどの実力があるから。

 あくまで自然に道端で見つけた野良猫に向かって寄っていくように近づいていく。王鶏は巣の中にいるがちょうど反対を向いている。だから、最初に奏に気づいたのは巣の周りで警戒をしていた近衛鶏の一羽だった。

 その近衛鶏は群れの縄張りに侵入してきて不遜にも巣の方へ歩いてくる不届き者に制裁を加えようと仲間に知らせようとした。その鳴き声を鳴らさんとしたその瞬間、その喉元に黒い手投げナイフが刺さっていた。

 声にならぬ声をあげて近衛鶏は倒れる。奏が一歩一歩巣に近づいていくたびに奏に気づいた近衛鶏が倒れていく。ザシュッと小気味いい音と共に一羽また一羽と倒れていく。

 しかし、いつまでも気づかれずに行くには無理がある。


「よう」


 だから、奏はあえて声をかけた。これから一緒にゲームでもしようぜと友人に声をかけるように気安く。

 王鶏はその声に反応して振り返って目の前の光景に困惑した。いつの間にか巣の近くまで近づいていた謎の侵入者。そして、気付かぬ間に減らされ今にもダンジョンに消えようとしている近衛のものたち。

 怒りに震えさらに群れの仲間を呼ぶために鳴き叫ぶ。


『コッゲ、コッッコーー!!』


 羽を広げ暴れながら発した鳴き声に応じて離れていた近衛鶏たちが集まってくる地響きが聞こえる。

 奏はいつの間にか持っていた手投げナイフを振りかぶり王鶏に投擲する。ヒュッと空気を割きながら進むナイフは王鶏が羽を広げて暴れて生まれた風によって狙いがそれてその首をかすめ類だけにとどまる。


「ほら、来いよ」


 挑発するように手をクイッと曲げる奏に対し、王鶏はその鋭いくちばしで奏の腹を貫かんとする。その軽自動車並みの巨体が一瞬でトップスピードに達して突っ込んでいく。

 瞬間、王鶏の目の前にいたのは黒い戦槌をバットのように大きく振りかぶる奏。

 ゴッッ!!と鈍い音をさせて衝突する王鶏と槌。反動によろけながら王鶏が見たのは「あばよ」と呟きながら斬馬刀のようにやたらとでかい黒刀を振りかぶる奏の姿だった。



 当たり方としては完全にホームランだった。ボールは軽自動車並みの大きさでバットは戦槌だったけど、これはホームラン。文句は言わせない。

 鶏系というか鳥系統のモンスターは爪やくちばしが鋭くて危険な代わり他の動物系モンスターに比べて斬撃に弱い。だから、こういう風にざっくり首切っちゃえば楽なわけだ。すばしっこいからそこまで行くのがめんどいわけだが。

 周りに集まってきていた近衛たちも王がやられたのを見てコッコッ、コケコケ言いながら蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 残った魔石とくちばしを回収しておく。思いっきりホームランだったからひしゃげてるけど……。買い取ってくれるのか、これ。


「何はともあれ、これで卵ゲット!!」


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