第5話 渋谷ダンジョン

 渋谷ダンジョンの入り口は東京第三事務所のすぐ横にある。やや小さめの体育館のような施設の奥に地下鉄の入り口のようなものがある、そこがダンジョンの入り口。

 施設の入り口で組合証を見せて中に入ると多くの人でにぎわっていた。午前の探索帰りで疲れ切った様子の探索者、これから潜るために並ぶ列。ダンジョン内の消耗品を売るための露店。わいわいがやがやと五月蠅い様子はどこか祭りのように感じる。

 特に用意するものや買うものもないのでそのまま列に並ぶ。後は守衛さんに組合証見せてレッツゴーだ。久しぶりの高ランクダンジョンだ、ワクワクしてきた。

 ダンジョンの入り口は組合の職員と何人かとその護衛たちによって固められている。今、誰がダンジョンに入っていて誰が返ってきたのか危険物を外に持ち出していないかモンスターを引き連れてないかと色んな事をしている。ご苦労なこって、助かっているのは確かだが俺はお役所仕事は苦手だ。別に細かいことが苦手で不器用なわけではないぞ、うん。


 ちなみに凜華さんはしれっと俺と一緒にダンジョンに行こうとしていたところを副所長に捕まって連れ戻されてた。また抜け出してと怒られていたことを見ると常習犯なのだろう。去り際に「プリンアラモード絶対食べに行くからなぁ~」と叫びながら引きづられていったので何とも残念な絵面になっていた。


 そんなこんなことを考えていると列もある程度進む。ランク7のダンジョンに潜ろうとしている探索者たちのことだけあって装備も豪華だ。

 俺の前に並んでいるのは……前衛のタンクであろう重装備の人、後衛で支援型か魔術師型であろう軽装備の人、メインのアタッカーなのか高性能なのが見て取れる武器を持っている人と、パーティーかな?そして、その後ろに並ぶ渋谷に遊びに来た一般人のような格好の俺。装備は何もない、持っているのはいつも持ち歩いている通称魔法の箱マジックボックスことこの手のひらに収まる箱だけ。


 あっという間に次が自分の番になる。まぁ、場違いではあっても態々止めて声をかけるようなやつはいない。このランク帯のダンジョンに潜るような探索者はもう既にダンジョンの洗礼を受けている。ダンジョンの中は何があっても自己責任。たとえ準備をきちんとしてなくて死んでも自業自得。必要があれば助け合うし、最低限お互いのためのマナーがあるが必要以上に絡むことは無い。さっき絡んできたやつは別だけど……。


「次の方どうぞ。組合証の提示をお願いします。」


「あっ、はい」


 ダンジョンはその発生地の影響を受けるものがある。その土地のものに因んだモンスターが出たり、その土地と似た地質になったりすることがある。そして、この渋谷ダンジョンは東京に唯一のダンジョン。大都市のど真ん中にできている。だからか、このダンジョンの上層は地下街のようになっている。

 ダンジョンができる際に近くのデパートの地下街をそのまま吸収したのではと言われている。店や商品などもそのままだ。下に降りるには動かないエスカレーター。そして、店員の代わりに店番をしているのはゴブリンやオークたち。ニギヤカダナァ。


「やっぱそこそこ人いるな」


 上層とはいえこのダンジョンはランク7。得られる恩恵も大きい。

 確かこの地下街風の商店街の中でたまにダンジョンの素材が売ってる店があるらしい。実入りがよくていい稼ぎ場所らしい。店員は例にもれずモンスター達なので買い物方法は強盗さながらだけど。


「人多いってことは必要な戦闘減るってことだし、さっさと目的の階層まで行くか……」




「とりあえず草原着いた、走ったから疲れた……」


 てことで飛ばしてきました40階層。

 最初の10階層までは地下街風だったりショッピングモールの中っぽい広い感じだったりと人工的なものが続く。その後、人工的なものが無くなっていつものごとくの洞窟状のダンジョンになる。途中、やたらと広い階層になったりドーム状の空間があったり地底湖があったりするがそこまではまだ理解できる。

 そして、この40階層を過ぎてからがもう訳が分からない。長谷川さんが言っていたそのままの文字通り草原エリアなのだ。地下に草原とはこれ如何にと思うがダンジョンの特性に疑問に思ったらもう負け。本当に何でもありなのだ。通常の物理法則がいっさい通用しない、環境に適応しようと気を取られればモンスターにやられる。弱肉強食だ。


「42階層のとこって言ってたよな……。あと二個下か」


 この草原やたら広いのだ。階層によって違ったりするが大体最低でも東京ドーム四個分ぐらいはあるらしい。ドーム何個分と言われても行かない人には分からん。野球場四つともう一回りとでも考えればいいのだろうか。分からん……。

 次の階層に続く階段目指して進んでいく。


『ブルルゥ』


 視界の端をドカドカッと地面を削りながら馬が駆けていく。

 草原って言ったら馬だよなぁ~。遊牧民とかのイメージが浮かぶ。良いよね馬、乗れる人かっこいい。遠くだとよくわからんな……。


「お―い!」


 あ、気付いた。ちょっと近づいてきたぞ、でかいなぁ。どんどん近づいてくる。いや、待ってむっちゃ来る。はやっ、ちょっと待って!


 思ったよりでかいし早くて反射的にちょっと逃げてしまった。俺の背丈の二倍ぐらいあるな……。遠くからからやったらよく分からんかったけどなんか蹄から火出てね?たてがみとかよく見たら炎そのものやん。


『ブルゥ』


 鼻から炎出すんだね君。ワー、カッコイイナ……。


「リンゴいるか?」


 ボリボリ食べてるや。一口やん。

 この部分だけ見たらかわいいな、全然かわいい見た目とでかさじゃないけど。草食動物系統のモンスターは友好的なものが多いと聞いていたけど本当だったんだな。

 あ、食べたら満足したのかな。どっか行っちゃた。地面の草燃えないんかな、不思議だ。……さっさと目当ての階層行こ。





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