先生と僕 (BL短歌)
沢村基
先生と僕
秋の陽の輝き一つとどめおく レンズの奥のゆかしき双眸
「せんせい」と呼べば微笑む菊一輪 清く薫るは君の建前
尊敬と思慕を集める教卓に 嫉妬のような曼珠沙華置く
忍びより眼鏡奪って戯(おど)ければ 目隠し鬼は僕を捕らえる
ガラス越し怜悧な瞳に隠された 君の潮(うしお)に触れたくて いま
白墨の粉で汚れた指先が甘いか苦いか 僕は知ってる
「ほらここを試験に出すぞ」耳元で 君の「出すぞ」がまたよみがえる
はじめから孤立無援の関係を 隠して僕らは罪を重ねる
「秘密だよ」口先だけは神妙で 破滅の気配を楽しんでいる
窓に咲く氷花だけが知っている 聖夜の晩の狂おしき儀式(ミサ)
その胸に その黒瞳にすがりつき 乱れて僕は永遠を知る
思い出がひとつ増えて近づきぬ 愛しき日々の終焉の時
恋人は笑顔のままで嘘をつく 「君の未来のために」だなんて
「大人とは泣かない人のことですか」 レンズ越しの表情(いろ)は読めずに
燃え上がる紅葉も朽ちて色褪せぬ 未来の花の土となりゆく
我死なば 輪廻(りんね)はめぐるいつの日か 眼鏡にかなう恋人として
学舎(まなびや)のモノクロの記憶 色萌ゆる 蔦(つた)の葉色はあの日のままで
走り行く生徒の背中いとけなく 子供でしたか あの日の僕は
君の前 堂々と立つ僕の名は 今日から「教育実習生」
「せんせいに憧れてここに来たんです」 鼻白(はなじら)む君は「指導教員」
先生と僕 (BL短歌) 沢村基 @MotoiSawa
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