第3話 また会いました

「おいおい、まだやってるよ……。よく飽きないもんだ……。」


ホロに映された報道番組では記者とドローン達に詰め寄られる軍の高官の姿があった。


まあいきなり絶対防衛圏の内側も内側、最終防衛ラインである月の更に内側で敵の『甲標的』が現れたのだ。


一般の人々やマスコミにとっては非常に気になるところだろう。


「しっかし少し酷くないかねぇ……。」


安芸は清潔感満載の真っ白な部屋を見てそう呟く。


今は航宙母艦生駒いこまの部隊に回収されてから3日が経過していた。


あの少女は女性兵士によってどこかへ連れていかれ、自分は戦果報告の後、怪我がないかメディカルセンターへと放り込まれた。


しかし機密守秘の為か、元から全く元気だと言うのに一向に退院許可が降りない。


いくら部屋が綺麗だとはいえ、そう何日もカンヅメにされると気分が悪くなってくる。


いい加減文句の一つでも入れてやろうかと思った時、訪問者は突然に現れた。


「東雲伍長、入るぞ。」


「っ!?た、隊長!ご無事でしたか!」


「ああ、撃墜されたが、何とも無かったさ。」


いきなり室内に入って来たのは皇国宇宙海軍の藍色の軍服に身を包んだ、おかっぱのように短く切り揃えられた濡羽色の黒髪と凛々しい顔つきが特徴的な女性。


自身の所属する空間戦斗せんとう機兵、通称『機兵』で構成されたロボット部隊、東郷隊の隊長、東郷皐月とうごうさつき軍曹だった。


安芸は慌ててベットから起きようとするが、彼女に手で制される。


「いい、そのまま楽にしておいてくれ。」


「わ、分かりました。」


とは言われても上官の前では嫌でも緊張する。


特に目の前の人物が3年前、齢20歳にして初陣でいきなり5機を撃墜したスーパーエースなら。


「そう肩の力を入れてくれるな。今回ここに来たのは別に悪い知らせのためじゃない。君をここから出すためだ。」


「え……じゃあ退院ですか?」


「そうだ。早速準備してくれ。私は外で待っているからな。」


「は……はい!」


嬉しさに飛び跳ねそうになりながら軍服へ着替えると、久しぶりに外に出て隊長の後ろをついていく。


廊下を歩いていると道の途中にあった大きな窓から我らが母なる星の温かな陽光……ではなくオゾン層と大気を挟まないガチのヤバい光が入ってくる。


ここは第三軌道エレベーターのターミナル、今の自分たちは地上100km以上の宇宙空間に居るのだ。


「それでこれからどうするんです?まだ帰ってはいけないので?」


「焦るな伍長。少し野暮用に付き合ってもらうだけだよ。」


「?そうですか、野暮用ですか……。」


おそらく何かの検査をするくらいで終わるのだろう。


そう思っていた。


だが実際は予想とは遥かに違った。


乗せられたのはステーション間を繋ぐ交通機関ではなく、どこか別の場所へと向かう軍の内火艇。


そしてしばらくしたのち到着したのはクリニックの受付窓口でもなく、全長数kmを優に超える大型の宇宙空母。


それも精鋭中の精鋭が集まる第一艦隊、第一航宙戦隊所属の。


「あ、あの……どうして『赤城』なんかに向かってるんですか……?」


「ん?だから言っているだろう。野暮用だと。」


「自分も隊長もここの所属じゃない筈ですが……。」


「とにかく今は黙って着いて来てくれ。本当ならウチで良かったんだが、直前で奴が駄々をこねてな。」


「は、はぁ……?」


自分と一航戦が繋がる点が見つからない。


向かう理由について唸っているといつの間にか内火艇は赤城へ着艦していた。


タラップを降りた先は学校の体育館がふたつみっつ入ってもまだまだ余裕がありそうなほど広い空間。


宙母搭載型の機兵が並べられた格納庫だった。


沢山の人間や作業機械が行き交うその中を隊長と2人で歩いていく。


「あれって『天雷』……ですよね?」


「いや、正確には『彩雲』だな。お前の天雷の早期警戒管制機AWACS仕様だ。うむ、やはり何度見てもあの太ったフォルムが気に入らん。」


「それ乗ってるパイロットの前で言うことですかねぇ?」


「ふっ……まあ曲がりなりにもお前を守ってくれた機体だからな。悪く言うのはやめておこう。」


「ずっとそうしてもらえるとありがたいです。」


今更であるがこの東雲安芸が乗っている特車の名前を『天雷』という。


設計のコンセプトは『重装歩兵』と『戦闘爆撃機』。


つまり火力と防御力が高いのが特徴的な機体だ。


それゆえに全身が分厚い装甲に覆われており、更には防御システムやら近接火器やら爆弾やらを載せればもうお相撲さんみたいになってしまう。


けれど見た目通り防御力は折り紙付きだし、自分もこれのおかげでこの前は勝つことが出来た。


アニメで言うところのいわゆるダサかっこいいみたいな機体だが、結構気に入っている。


ちなみに隊長など大半の一般兵が使っているのが『晴嵐せいらん』。


『侍』と『戦闘機』をコンセプトにしているだけあってその見た目はスリムで、素直にカッコいい。


また機動力、火力、防御力共に纏まった性能をしており、新人からベテランまで愛される機体だ。


話を戻すが、2人は艦の中央ブロックまで来ていた。


周りをすれ違う兵士の数も少なくなり、気付けば自分達以外の足音は聞こえなくなっている。


少し不気味に感じてきたところでようやく目的地の扉の前へと到着した。


「ここだ。失礼の無いようにしろよ。」


「はい。」


隊長が機器に手をかざせば、自動で扉が開く。


その時だった。


「あっ!こら!待てっ!」


「やー!」


中から怒号が聞こえたかと思えば小さい何かが隊長の傍をすり抜けてきた。


そしてそれはこちらへと向かってくる。


「そいつを捕まえてくれ!」


「へっ?……ぶほっ!?」


室内から職員らしき男が顔を出したが、それに気を取られてよく前を見ていなかったのが良くなかった。


直後に感じたのは腹への重い衝撃。


いきなりのそれに対応出来ず、その勢いのまま後ろへ派手に倒れてしまう。


「ってぇ〜……!」


後頭部と腹の痛みに悶えていると、何かが自分にのしかかっていることに遅れて気付いた。


目を開けて見てみれば、視界に入って来たのはさらさらと揺れる金色の何か。


手で掬ってみると、人間の髪の毛であることが分かる。


「……え?」


「んー?」


次に聞こえてきた甲高い声にはっと正面を向くと、自分の腹の上に小さな生き物が居た。


いや、厳密には幼い少女が居た。


それもどこか見たことのある金髪碧眼の……。


「この子って……。」


「あ……あ……。」


安芸にとって彼女は見覚えがあり過ぎた。


その前にロリコン判定されるのは嫌な為、まず幼女を離そうとする。


が、その前に彼女の方が先に動いた。


「あ……き……アキっ!!」


「ぶおっ!?」


顔に思いっきり飛び付かれ、視界が真っ黒になった。


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