第17話
「ねぇ
十月のよく晴れた水曜日。また凛夏さんからお声掛けをいただいた。
前回のケーキバイキングから、まだ二週間程度しか経っていない。
そしてなんだかすごくモジモジしていて、いつもの快活な凛夏さんっぽくない。
これは一体……。もしや……?
本当にどうなっているんだ最近の僕は。冗談だったけれど、本当に『モテ期』ってやつが到来しているとしか思えない。
まあ、現時点では凛夏さんがどういうつもりで誘ってくれているかはわからないけれど。
でも、さすがに多少の好意は持ってくれていると思う。
僕といる時は、いつも楽しそうに微笑みかけてくれるし、僕が言うことによく笑ってくれるし、そもそも好意がなければ何度も誘わないだろう。
もちろん快諾し、例のケーキバイキング店へ二人で向かった。僕の心はワクワクしっぱなしだった。
道中は、前回同様何気ない話ばかりしていた。
ただ、時折考え込んだ様子で遠くを見たり、僕の顔をじっと見つめたりする凛夏さんの様子が少し気になった。
どうしたのだろう。前回とは何かが違うような……。
そういえばこの感じ、つい最近見たことがある。
優香ちゃんだ。
告白をする前の優香ちゃんの感じと似ている。
ちょっと違うけど、そのへんは単なる個人差かもしれない。
ということは。
まさか……まさか……。
凛夏さんが……僕に……告白…………?
そんなことを考え始めてから店に到着するまでの二十分ほどは、凛夏さんが途切れ途切れにする話に対して、僕がただ生返事をするだけ、という空虚な時間が続いた。
ケーキバイキング店に到着してからも、会話はあまり弾まなかった。凛夏さんがどこか上の空で、僕も変にどぎまぎしてしまっている。
前回は普通に食べられたケーキも、今回は全然入らない。
凛夏さんも、あまり食べていないように見える。九十分食べ放題なのだから、もっと頑張って食べないといけないのに。
まずい。邪念を追い出して、食欲を呼び戻さないと。
「あの……ね? ちょっといいかな」
凛夏さんのその言葉にドキっとし、追い出しかけた邪念が駆け足で戻ってきた。
「は、はい……?」
凛夏さんがモジモジしている。それはもう、この上なく歴然と。
いや、そんなバカな。
いくらポジティブ思考な僕でも、そこまで都合よく考えるのは無理だ。
あの凛夏さんから……。
挨拶を交わせるだけでその日一日がバラ色になってしまうくらい、僕への影響力が絶大なあの凛夏さんから……僕に……こ……告…………白…………?
い、いや……それはいくら何でも僕にとってご都合主義すぎるというか……。
「本当はバイキングが終わってから話そうと思ってたんだけど、気になっちゃって全然食べれそうにないから、今言うね」
ちょっ……これっ……えっ……?
「あの……さ、私……」
胸がいっぱいで食べられないを通り越して、さっきまで食べていたケーキが全部戻ってきそうになった。
でも駄目だ、それだけは絶対回避だ。そんなことをしたら絶交だ。自分と絶交。それが可能かはわからないけど、それくらいありえない行為だぞ僕! 耐えろ! 耐え切るんだっ!
「私ね……春夏冬君と何度も会っているうちに確信したんだ」
緊張と期待と興奮と吐き気がミックスされた、初めましてな感情との遭遇に頭が真っ白になった。
鼻の穴がつい膨らんでしまう。体温も、信じられないペースで急激に上がっていくのがわかる。
「……」
あれ……? 凛夏さんが急に黙った……。
た、頼みますよ凛夏さん、そこで黙らないで!
次の言葉を探しているのかもしれないけど、急いでくださいっ……。
「あのね、春夏冬君……。む、無理だったらいいんだけど…………」
早くっ……!
さっきから呼吸がうまくできないんですっ……!
もう窒息しそうですっ……!
早く次の言葉をっ……!
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