第10話
まずはみんなで軽く準備運動をしてから、いよいよ練習が始まった。
テニスなんて初めてやるけど、飛んできたボールをポンポンと打ち返す作業は結構楽しかった。全然上手く返せないけれど。
今まであまり運動してきたことがなかったし、たまにやってみても上手くいったことがなかったからスポーツ関連は敬遠していた。
だけどテニスは結構楽しい。下手の横好きだろうとなんだろうと、楽しいのだから仕方がない。
だけど目的はテニスを楽しむことじゃない。
凛夏さんだ。少しでもいいから、凛夏さんと喋りたい。
練習が始まってから一時間ほど経った頃、一旦休憩に入った。
みんな、それぞれのグループを作りながら、持参のドリンクを飲んだり座り込んで会話したりと、思い思いに休憩している。
僕が狙うのは、もちろん凛夏さんのグループだ。
よく見れば、一年生は一年生、二年生は二年生、三年生は三年生、という感じでグループになっているけれど、別に三年生である凛夏さんのところに行ってはいけないというルールはないはず。
少し緊張するものの、勇気を出して、女子三人で楽しそうに会話している凛夏さんのグループへ向かった。
座りながら三人で喋っている凛夏さんのもとへ到着し、思い切って話しかけてみた。
「こ、こんにちは凛夏さん!」
「ん……?」
「あの……レインボーの春夏冬っていいます!」
「あきない……君? ――ああ! 春夏秋冬で秋だけないから『あきない』って読む、あの春夏冬君ね! 思い出した! 久しぶり~。サークル勧誘の時以来だね~」
「はい! お久しぶりです! あ、凛夏さんって、三国志だと誰が好きですか?」
「え……?」
「あ……。で、ですから、三国志だと、どういうタイプの人が好みなのかなぁ、って……」
「プっ……。あははははっ!」
いきなり爆笑されてしまった。
凛夏さんの横にいる二人は、キョトンとしながら僕の方を見ている。どういうことなのだろう。
ようやく笑い終えた凛夏さんが、涙を拭きながら喋り出した。
「ご、ごめんね春夏冬君。急に笑っちゃったりして。君、面白いね」
「おもし……? そ、そうですか……?」
意味がわからず不思議そうにしていると、再び凛夏さんは笑い出した。
「ははははっ……! あ、何度もごめんね。ちなみに春夏冬君は、テニス経験者なの?」
「いや、今日初めてやりました」
「へえ、そうなんだ。テニス、面白い?」
「面白いです! 今日いきなりテニス大好きになりました」
「あはははっ! 今日いきなり好きになったんだ?」
「はい、テニス最高です! ずっとこのサークルにいようと思います」
ここで一旦会話が止まり、凛夏さんは僕の顔をまじまじと眺めてきた。
一瞬何が起こったのか理解できなくて目が泳ぎまくったけど、すぐに凛夏さんは、
「よかった、それならこれからずっと会えるね。これからもよろしくね」
そう言ってくれた。
練習が再開してからも、やけに凛夏さんがチラチラと僕の方を見てくれることに気付いた。
なぜ気付いたかは簡単で、僕がその十倍以上チラチラと凛夏さんの方を見ているから。
思い切って話しかけにいった積極性を気に入ってくれたのだろうか。
それとも、僕みたいな顔が好みだったり……?
そんな夢想のおかげで、練習が終わるまでの間、ずっと夢見心地だった。
それにしても凛夏さん、普段の顔だけじゃなく笑顔まで素敵で、声も素晴らしく可愛い。聞いているだけで胸の奥がホワっとしてくる声だ。
喋り方もすごく柔らかくてホっとする。高校時代の瑠璃ちゃんも結構好きだったけど、今の凛夏さんへの気持ちとでは比較にならない。
僕が、顔以外の部分も含めてこんなにも人を好きになったのは、これが初めてかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます