第8話
待ちに待った新歓コンパの真っ最中。
新入生二十人、先輩たち五十人が入り乱れての乱痴気騒ぎとなっていた。
各所で巻き起こる一気コール。急性アル中で亡くなる人もいるから、もう絶滅したのかと思っていたけれど、まだまだこの文化は残っているらしい。
僕はまだ十八歳で未成年なので、もちろんお酒はすべて断った。どんなに勧められても、どんなにしつこく一気コールをされても、徹底的にウーロン茶で通した。
「いや、まだ未成年なので」
そう言うと、なぜか周りは鼻白む。昔からよく見てきた光景だ。当たり前のことを言うと、なぜかみんなの動きがピタリと止まり、こうなってしまう。
この怪現象に、小学校高学年くらいから悩まされ続けてきた。壮大なドッキリでもかけられているのだろうか。
今回にしてもそうだ。なんでそんなに僕にお酒を飲んで欲しいのだろう。何を考えているのかよくわからない。
というか、ここにいる一年生はほとんどが十八歳か十九歳のはずなのだが、なんで他のみんなはこんなに堂々と酒を飲んでいるのかすごく気になった。
まあでも、今はどうでもいい。そんなことなど比べるに値しないくらい気になっていることがあるのだから。
新歓コンパが始まって一時間、ここまで待ってみたけれど、もう限界だ。
我慢できなくなったので、ついさっき「参上~♪」とか言いながら正面に座って飲んでいる、名も知らぬ二年生の先輩男子に聞いてみることにした。
「あの、サークル勧誘の時にいた凛夏さんっていう人は今日来ないんですか?」
一瞬怪訝そうな顔をした後、酔っ払い独特のデカい声で話し始めた。
「あー、あの人ね! 『アルファ』の秋山凛夏さんでしょ~、三年生の」
「アルファ……?」
「そう、アルファっていうテニスサークル。うちの大学で一番でかくて華のあるサークルだね。毎年、黙っててもすごい人数が入会しようとするんだけど、五十人が上限だからなかなか入れてもらえないんだよ! アルファは、テニスサークルカーストの最上位だからね!」
「え……? 凛夏さんってレインボーの人じゃないんですか?」
「そんなわけないじゃん! あんなに可愛い人が!」
「そ、そんなのって……。え……?」
「ああ! わかった! 君、凛夏さんに勧誘されたんでしょ? なるほどね~! そういうことか~」
「いや、どういうことですか?」
「アルファは、わざわざサークル勧誘をする必要がないから、他のサークルの勧誘を手伝ってくれるんだよ。うちみたいな地味めのサークルはすごく助かるんだよね~」
「はっ? そ、それって詐欺じゃないですか!」
「え? いやいや、大げさでしょ~! 別にサークルなんてどこに入ったって大差ないんだし。そんなことでいちいち文句言う人いないよ~。そうだったんですねぇ、で終わりでしょ~。もっと言うと、俺もアルファの人に勧誘されてレインボーに入ったしね!」
「……」
「でも、全然文句なんかないよ~! このレインボーもめっちゃ楽しいし! そりゃアルファに比べれば地味だけど、味わい深くて良いサークルだよ~」
やられた。まさか、こんな偽計を用いてくるとは。
サークル業界の姦計にまんまと乗せられてしまった自分には、失望しかない。
「でもさ~、そこまで悲観することないと思うよ~! アルファとは合同練習できるから~! 大体第一土曜と第三土曜だね」
この瞬間から、土曜日は予定を入れたり体調を崩したりできない日と化した。第一と第三ということだったが、「大体」ということは、凛夏さんと会えるチャンスが第二土曜や第四土曜に飛び込んでくるかもしれない。油断は禁物だ。名だたる軍師も、ほんのわずかな油断から寝首をかかれることがあるのだから。
よし、毎週金曜日は夜九時に寝よう。たっぷり睡眠をとって、万全の状態で土曜日を迎えねば。
凛夏さん、待っててください。不肖、春夏冬、必ずあなたのもとへ馳せ参じます。
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