第6話

 以上が、僕の高校生までの話だ。

 ちゃちゃっと語ると言いながら、だいぶ長くなってしまった。


 正直なところ、これまでは失敗だらけだった自覚はある。


 それでも、僕はまったく落ち込んでいない。だって、明日からいよいよ大学生活が始まるのだから! 恋愛の本番は、やっぱり大学からだろう。


 僕は高一の終わりくらいから、早くも大学に懸けていた。これまでの扱いや印象を完全にリセットするには、こういう節目しかない。


 「大学で今度こそ可愛い彼女を作る」という、強く気高い志を持って必死で受験勉強した結果、駒川大学というそこそこのレベルの私学に合格することができた。


 私学なので結構学費が高いようだが、そこは親が出してくれることになった。


 高校に続き大学も私学。それでも文句を言わず学費を出してくれたことには、あんな親であろうと一応感謝しておこうと思う。


 明日は大学の入学式。

 もちろん、今回も僕は戦略を練っていた。これまでと同じ失敗をしないために。


 何事に対しても、戦略を持たず事に臨むことが嫌なのだ。行き当たりばったりなど、軍師に憧れる人間としてあるまじき行為。


 だから、今度こそちゃんと理想の彼女を得るために、策を練りに練った。


 今思えば、高校の時に採用した「性別的にグレーな存在として女子グループに一旦溶け込んでから男子として告白する」という戦略は、ちょっと新しすぎたのかもしれない。もっとシンプルな方法でいくべきだったのかもと後悔している。


 まあいい。どんな大軍師でも、たまにはヘマをやらかす。


 君主である劉備りゅうびから「馬謖ばしょくは重用するな」っていう遺言が残されていたのに、大事な戦争で馬謖を指揮官に任命してしまった稀代の大軍師、諸葛亮孔明。


 結果、やっぱり馬謖は大ポカをやらかし、任命した諸葛亮は泣いて馬謖を斬る羽目になった。


 僕の戦略ミスも、その類のものだ。違いは、僕の場合は自爆だったために斬る馬謖が見当たらなくて、一人で泣いたってことくらい。


 過去の失敗を悔やむのはもうやめよう。先を見るんだ。史を見ても、成功した計略というものの中には、時にトリッキーなものもあるけれど、基本的には王道のものが多い。


 そう考え、大学では王道の作戦でいくことにした。


「一切気を抜かず、意識的に男らしく振る舞い続け、うなぎなどとは決して呼ばせない」


 という作戦で。


 具体的には、クネクネしない、内股にならない、女っぽい仕草をしない。一人称も『僕』から『俺』に直す。女顔は直せないけど、髪型を短髪のツンツン頭にすることで少しは印象が変わる。


 そしてとどめに、アパレルショップの店員さんにコーディネートしてもらって、女子受けするファッションに身を包む。ここまでやれば抜かりはないだろう。


 勝負は明日の入学式から始まっている。今度こそ失敗するわけにはいかない。

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