第2話

 ここからの人生は大きく変わる。そう意気込んでスタートさせた高校生活。


 入学式が終わり、教室に入ると、早速可愛い子が二人ほどいた。藤川麗華ふじかわれいかちゃんと本田瑠璃ほんだるりちゃんという子だ。


 どちらもすごく好み。

 麗華ちゃんは黒髪で清楚な美人系、瑠璃ちゃんはやや茶髪のかわいい系。


 クラスの男子たちも、チラチラと、かつ舐め回すように、この二人を見ているに違いない。首を可能な限り動かさず、眼球の動きだけで彼女たちを視界に捉えようと必死のはずだ。


 なぜ分かるか。答えは簡単、かく言う僕もその一員だったからだ。


 こうして、高校生活の初日からいきなり、二人の美女を巡る激しい戦いの火蓋が切って落とされた。


 この教室にいる二十人の男子たちはみんな敵。もう、これは戦争だ。策なくば生き残れない。君たちに、そこまでの策が用意できているのかな?




 入学から三日目。

 僕を含め、まずはみんな友達作りに勤しんでいた。


 僕が最初に友達になったのは、前の席に座っている工藤君。なかなかのイケメンで、かつ中学時代は野球部のエースだったという、麗華&瑠璃コンビのどちらかをゲットしそうな最右翼だ。友達になれたとはいえ、譲るわけにはいかない。


「そういえば、男子みんな、藤川さんと本田さんを狙っているのが丸分かりだよね」


 僕はいきなり核心をついてみた。


 場合によっては、同盟も考えている。そのためには、ある程度までは腹を割り、お互いの考えを共有しておく必要がある。


 手強いライバルたちを駆逐して目的を果たすには、元野球部のエースという多少の毒でも喰らう覚悟だ。


 あの諸葛亮も、関羽かんうを殺した憎きと同盟を結んで、を倒すという大望を果たそうとした。


 別に工藤君に個人的な恨みがあるわけではないけれど、イケメンで野球部のエースだったいう時点で少しだけ憎い。


 でも、そんな少しだけ憎い工藤君との同盟も辞さないのだ。大いなる目的を果たすためならば。


 さぁ、この問いに、なんと答えるのだ工藤君よ。


「え……? みんなが藤川さんと本田さんを狙ってる……? それはちょっとよくわかんないけど……」


「いや、狙ってるじゃん! 工藤君もそうでしょ? とぼけなくていいって。もちろん誰にも言わないから」


「いや、別に……。ってか、まだ学校始まって三日目だし、誰もそこまで考えてなくない?」


 なかなかの策士だ。健全な高校生男子で、彼女を作りたくないと思っている人間などいないのだから、クラスで二大美女となるあの二人を狙わないわけがない。それなのに冷静にかわしてきた。


 でも、僕の目はあざむけない。虚言で煙に巻こうという腹がバレバレだ。


「大丈夫だよ工藤君。僕は味方だから。ここは協力しようよ」


「ハハハっ! なんか面白いね春夏冬って。名字からして面白いもんね。春夏秋冬の秋がないから『あきない』って」


 なるほど、僕の名字をイジることで一旦逃げたか。僕は別におかしなことなんて言っていないのに。


 ここは逃がさないよう、追撃してみることにした。


「いや、僕は真剣なんだけど。おかしいことなんて言ってないよ。誤魔化すのはやめようよ」


 真顔で迫ってみたところ、なんだか変な顔をしている。


 はっは~ん、なるほど。そんなとぼけたフリまでして、ライバルたちを油断させようってことか。

 その手には乗らない。僕にそういう計略は通じないのだ。


 何かを悟ったような僕の顔を見て察したのか、次の瞬間工藤君は、


「そっか。ごめんごめん。まあ、確かにあの二人は可愛いよね」


 ようやく認めた。僕の粘り勝ちだ。

 工藤君も、あの子たちを狙っているという言質げんちを取った。


 よし、あとは二人で手を組んで、恩賞を山分けすればいい。僕は、麗華ちゃんでも瑠璃ちゃんでもどちらでもいいし。論功行賞は、今後のお互いの働き次第で執り行えばいい。


「よし、じゃあ決まりだね。協力しよう。工藤君はどっちの子?」


「え……?」


「遠慮しなくていいよ。僕がそんなに強欲だと思った? 僕から協力を持ちかけたんだから、当然選択権は譲るよ。そこは安心して」


「……ああ、うん。そうなんだ」


「で? どっち? どっち?」


「まあ……。とりあえず別の話をしない?」


 さすが工藤君、野球部でエースを務めただけのことはある。そう簡単に手の内は明かせないってことか。敵に球種を読まれるわけにはいかない、と。


 ここは工藤君の意を汲み、まずは無難な話をしながら彼との関係を深めることにした。


 それにしてもこの流れなら、高校で彼女を作るために温めていた『あの秘策』を使わなくて済むかもしれない。できれば使いたくなかった策だし。


 入学三日目にして、早くもいい流れを掴めている。幸先良しだ。

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