【完結】クネクネ・ナヨナヨしたまったくモテない僕に、奇跡的なルートを辿って超絶可愛い彼女様ができる物語

三笠蓮

第1章【春夏冬の偏愛】

第1話

 まずは、僕の小学校から高校までの恋愛遍歴を、ちゃちゃっと語ってみたいと思う。


*****


 僕は、みんなから『うなぎ』と呼ばれていた。もちろん渾名あだなだ。姓にしろ名にしろ、そんなおかしなものがあるわけない。


 ……なんて思って調べてみたら、『うなぎ』という名字の世帯が全国に十以上あるっていうから驚きだ。


 世の中は広い。これは下手したら、下の名前でもあるのかもしれない。『串田くしだうなぎ』とか『蒲家かばやうなぎ』とか『浜松はままつうなぎ』とか。

 名字に持っていかれて、雰囲気でそんな名前をつける親、いそうで怖い。親なんてものは、本当に勝手な生き物なのだから。


 ちなみに僕の渾名の由来は、単に僕の動きがクネクネすることが多かったから。決してヌルヌルしているわけではない。


 おかげで小学校の時も中学校の時も、オカマだなんだとよくイジられてきた。


「うなぎー! 好きな男子の名前言ってみろよ~! お前、オカマなんだろ~?」


 なんというデリカシーのないイジリだろう。からかい文句にデリカシーを求めるのもどうかと思うけど。


 一応断っておくと、僕は女の子大好きなノーマル男子。むしろ普通の男子よりマセていて、初恋は幼稚園前にきっちり済ませてある。


 そして小学校に入ってからも、しょっちゅう恋をしていた。


 一年生の時が陽子ちゃんと春香ちゃん。

 二年生の時が夏希ちゃんと由紀ちゃんと美優ちゃん。

 三年生の時が海ちゃんと穂香ちゃん。ちなみに海ちゃんは、マリンちゃんと読む。初見の先生が必ず「うみちゃん」と呼び、「マリンです……」と本人が渋々訂正している姿が印象に残っている。


 四年生の時が鈴香りんかちゃんと真由美ちゃん。

 五年生の時が凛華りんかちゃんと舞ちゃん。

 六年生の時が凛花りんかちゃん。


 四年生の頃から、毎回『りんか』ちゃんがエントリーしてくる。なんだろう、『りんか』の響きに弱いのだろうか。


 そして珍しく、凛花ちゃんに関しては六年生の間を通してずっと好きだった。我ながら惚れっぽいなと思う僕史上、一年間を通して好きだった女の子は凛花ちゃんが初めて。


 顔が可愛かったのはもちろんだが、六年生が始まった時に、


「うなぎ君をいじめるのはやめなよ!」


 と言ってくれたその優しさも大きかったんだと思う。


 でもその一言のおかげで、周囲から、まるで僕がイジメを受けているかのように思われた、というデメリットもあったのだけれど。優しさ、諸刃の剣。


 僕はいわゆる愛されキャラってやつで、ただちょっとイジられてるだけなのに。そう、イジられてるだけ。認めたら負けだ。


 なお僕には強い味方がいる。インスタントラーメンという強い味方が。


 僕は何か辛いことや悲しいことがあった時は、必ずインスタントラーメンを食べるようにしている。ラーメン屋のラーメンでもなければ、カップメンでもない。インスタントラーメンがとにかく大好きなのだ。


 特にお気に入りなのが『塩とんこつ』と『みそ』。最大のストレス解消であり、どちらか食べられれば大満足、両成敗した日には至福どころの騒ぎじゃない。告白してフラられた時なんかは、快刀乱麻の大活躍をしてくれる。僕にとって、もはや薬だ。




 そんな小学校時代を経つつ中学に上がったのだけれど、一年生の時から渾名はやっぱり『うなぎ』。ほとんどが小学校からの持ち上がりだから、渾名が引き継がれてしまうのも至極当然だ。


 中学に上がってからも、ペースを崩さず毎年のように好きな人ができたけれど、


「動きがクネクネしてる」

「なんだかナヨナヨしてる」

「女みたいな顔してる」

「内股で歩いてる」

「仕草がいちいち女っぽい」


 そんなことを言われ続けて、僕がちゃんとした男子として見られることはなかった。そして相変わらず、小学校時代と変わらないイジリは続いた。


 中学三年間で七人に告白したのに全敗に終わってしまった、という不甲斐ない戦績には大いに落ち込んだ。小学校時代と合算するとフラれた回数は……計算したくない。下手な鉄砲もなんとやら、ということわざを作った人間に怒りすら覚える。


 インスタントラーメンがなかったら、きっとこの困難を乗り越えることはできなかっただろう。


 オカマだなんだとイジられつつも果敢にアタックする僕の勇姿を評価してくれる女子がいるんじゃないかと、一縷の望みを持ったのだけれど、運悪くそういう女子と遭遇することができなかったようだ。そう、運がなかっただけなのだ。運だけはどうしようもない。


 でも、別に気にしていなかった。中学が駄目でも、高校生活があるのだから。むしろ本格的な恋愛という意味では、高校からがスタートだという感覚だった。


 しかも高校は、中学時代の僕を知る人が誰もいない。


 もちろん、わざと同じ中学の人が来なさそうな高校を選んだ。家が東京都練馬区なのだけれど、選んだのは、千葉県千葉市の奥の方にある偏差値五十五くらいの私立高校。ドアtoドアで二時間半くらいかかる。


 進学校でもないのに、うちの学区からわざわざこんなに時間をかけてあの私立高校に行く人なんているわけがない。僕の戦略勝ち。


 僕は歴史が大好きだ。特に、『項羽と劉邦』とか『三国志』とか、そのあたりの時代の軍師。范増はんぞうとか、張良ちょうりょうとか、諸葛亮しょかつりょうとか、司馬懿しばいとか。


 超しびれる。頭一つで敵を翻弄し目的を達成する、というあの格好良さに憧れない男などいないだろう。


 でも、そんな高名な軍師たちでさえ、多くが不遇の時代を過ごしている。それならば、僕にだって長らくそんな時代があってもなんら不思議はない。


 今までの僕は、雌伏しふくときだったのだ。あの諸葛亮孔明だって、劉備玄徳と出会うまで長らく雌伏の刻を過ごした。その後、諸葛亮は大きく花開いた。三顧さんこの礼で迎えられ、天下三分てんかさんぶんの計をぶち上げ、それを達成した。


 僕も、必ず花開く。高校では、きっと可愛い彼女をゲットしてみせる。可愛い彼女と付き合って、将来を誓いあう仲になってみせる。


 そんな大きな野望を抱いていた。雄飛の刻は高校にあり、と。


 何しろ、僕には秘策があった。高校生活で彼女を作るための、大いなる秘策が。


 何事にも戦略的かつ一生懸命、これが自分の良いところだと自負している。

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