第22話 ハヤトくんのこと

ハヤトくんは大型犬です。

とても大きなワンちゃんで私にお世話ができるかどうか分からないのでとにかくお打合せだけさせて頂いてお話を聞くことになりました。

お家に行くとハヤトくんは屋根のあるテラスのようなところにいて、柵に前足をかけてワオーン!と吠えましたがすぐに慣れてしっぽを振って寄って来てくれました。

大きな体をしていますが気が小さいところがあり、花火の音や田んぼのスズメ脅しのドカンという音が大嫌いだそうです。

お散歩中にその音が聞こえると一目散に走り出してお家に帰って来てしまうとのことでした。

その時いきなりすごい勢いで走り出すのでお家の方がはなんども引っ張られて転んだそうです。

お打合せの時お家の方と一緒に実際にお散歩してみましたがぐいぐい引っ張っていくのでちょっと恐怖を覚えました。

これでいきなり走り出されたらとても止められないと感じました。

以前に別の大型犬のお散歩で急に引っ張られて転んでそのまま草の上を何メートルが引きずらていったことがあります。

ハヤトくんのお散歩のコースは田んぼの中の道を一回り歩くだけで距離も短く車が通ったりすることもほとんどありません。

急に走り出した時のことは心配でしたがお世話をお受けする事にしました。

そしてお世話の日がきました。

ハヤトくんのいるテラスに入ると大歓迎で大きな体で私に飛び付いて油断していると倒れそうになります。

後ろ足で立つと私と同じぐらいの身長があります。

ハヤトくんの首輪は革製で幅が5cmぐらいありバックルも頑丈な物です。

リードも太くてがっしりと重さを感じます.

お散歩にいこうね、と首輪をしようとしましたがはしゃいで頭を振って体をくねらせて横になってしまい暴れてバックルを留めることができません。

何度も首に首輪をかけるのですが最後のところでバックルを留められなくて大奮闘の末、ハヤトくんが疲れて抵抗する力が弱まったところでやっと首輪を装着することができました。

大はしゃぎのハヤトくんには号令が通じないことが分かりました。

そして心の準備をしてお散歩に出発です。

田んぼ道に出ました。

そんなに引っ張らないのでこの調子で一回りしようと思っていましたがいくらも歩かないうちにハヤトくんが止まったまま動かなくなりました。

すごくお散歩が好きというわけでもないので急に歩きたくない気分になったのでしょうか?

私は何故歩かないのか訳がわからないので困ってしまいました。

まだウンチもしていません。

おやつで釣ると少しだけ歩きますがまた止まってしまいます。

そうだ、ハヤトくん、今日は反対回りしようか?と言って、いつもと反対に田んぼの周りを歩くことにしました。

ハヤトくんが歩き出しました。

良かったぁ!とまたお散歩が始まりました。

ところが少し歩くとまた止まってしまいました。

帰りたいのかな...と来た道を戻ろうとしたその時

前触れもなくハヤトくんが走り出して畑に飛び込みました。

急に走り出したらリードを離してください、と言われていましたがそんな暇もないくらい急でリードは手首にかかったままでした。

私はハヤトくんに引っ張られて道から一段低い畑の中に頭からダイビングしてしまいました。

そこは背の高いお花が植えてあるところで私はそのど真ん中に飛び込んでしまったのです。

気がつくとお花は折れてその中に私は倒れ込んでいました。

メガネがどこかに飛んで行ってしまったようで見当たりません。

幸い怪我はしていないようでした。

ハヤトくんは困ったような顔をしてじっとしています。

起き上がってリードを持ったままメガネを探しました。

メガネがないのでよく見えなくてメガネを探すのに苦労しました。

やっと見つけて拾いあげるとつるが曲がってしまって顔にかけると斜めになってしまいます。

でも無いよりマシなのでそのままメガネをしました。

このまま帰ろうか?それとももう一度お散歩にトライするか迷いましたが

ハヤトくんを引くと歩きそうなので気を取り直してお散歩してみようと思いました。

ハヤトくんはたった今のアクシデントでお散歩したくない気分を忘れてしまったのかスタスタと歩き出しました。

そして田んぼの周りを歩いて、途中でウンチもオシッコもしておやつも食べて無事にお散歩を終えてお家に帰ることができました。

ハヤトくんにお水とご飯を与えてお世話が終わりました。

帰りに畑の持ち主のお宅にいってペットシッターであること、お散歩していてワンちゃんに引っ張られて畑に飛び込んでしまいお花を倒してしまったことをお話しました。

お花はどのように弁償すればいいのだろう?

どんなに叱られることだろう?と

不安な気持ちで尋ねていきましたが意外にもその畑の持ち主の方は、

「そうですか、いいですよ。花なんて倒れたって大丈夫です。犬のやったことですから気にしないでください!」と言ってくださったのです。

どれほど有難いと思ったことでしょう!

優しい言葉に涙が出そうでした。

許していただけたので、これでお家の方がお散歩していても、お宅の犬がうちの花を倒していったった、なんて言われなくて済むと思ったら本当に安心しました。

その後お家の方に一部始終を報告しました。

そして次日の早朝のお世話は昨日とは打って変わってハヤトくんは止まってしまう事もなく楽しそうに田んぼの中を歩いてくれました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る