第3話 なんかちょっと楽しくなってきたんですけど……

「暑いなぁしかし。森の中とはいえ、昼間はさすがに暑さがえぐいわ。汗だくになっちゃったよ~(情けない声の蒼)」


「太陽真上だから、直射日光ヤバイよね(相変わらず清々しく元気ではきはきと、さわやかにしゃべる藤木)」


「腹減った~。もう歩きたくないよ。くたくたなんですけどぉ」


「そっか。もうお昼だもんね。お弁当にしよう!」


「お弁当?」

 しおりには確か、現地にてって書いてあったはずだ。てっきり森から出て売店でも寄るんだと思ってた。


「さぁ、準備できたよ。蒼君、座って」

「レジャーシートまで持って来てたの?」

「そだよ。朝から張り切ってお弁当作ったの。食べよ!」

「それ重箱? おせち料理みたい」

「お節で使った重箱。ちょうどいいなと思って、たくさん作ってきた!」


 すごい量だ。軽く4人前は入ってる。


「一体何時に起きたんだよ」

「ん~と、5時、かな?」

「もしかして、それでそんなに大きいリュック背負ってたのか」

「うん。言ったでしょ! 愛が詰まってるって。ちゃんと保冷剤も入れてたから傷んでないと思う」

「保冷剤まで……。重かっただろ」

「平気! だって私の愛だもん。責任持って全部自分で抱えるよ」


「……バカか」


「ほら、早く。靴脱いで。ちょっとは疲れが取れるよ」


「あ、うん。あ、ありがとう」

 靴を脱いで、レジャーシートの上に体育座りをする。

 藤木はぺたんと女の子座り。


「蒼君」


「なに?」


「目とじて」


「へ? なんで?」


「いいから」

 いいから、ってそんな瞳をキラキラされたら、ドキドキしちゃうじゃないか。


「こ、これでいい?」


「うん」


「ひゃっ、つめたっっ!!」


「きゃははははははーーー。蒼君の反応、最高」


「うるせー。けど、いいねー」


「気持ちいい?」


「うん。気持ちいい」


「おしぼりをね、凍らせてたの。とけてちょうどよくなってるでしょ。首の後ろを冷やすと、ちょっとは暑さもしのげるよ」


「うん。びっくりして心臓が止まるかと思ったけど、なんだか元気出てきた。ひんやりして気持ちいい」

 よく見たら、藤木も汗だくだ。シャツの背中がぐっしょり濡れてる。


「どれ食べたい? ミートボールに、卵焼きに、唐揚げ、ロールキャベツにコロッケ」


「全部」


「全部ね。おにぎりとお稲荷さん。どっちがいい?」


「どっちも」


「はいは~い、どっちもね。おにぎりの中身は色々入ってるから、何が出て来るかはお楽しみ!」


「おかかとか、昆布とか? 鮭がいいな」


「鮭が当たるといいね。好き嫌いせずになんでも食べるんだぞ! はい、お箸」


「ありがとう。いただきます」


「なんか、このミートボール懐かしいな。幼稚園の頃の記憶ってあんまりないけど、遠足の弁当にこれ入ってて、めっちゃテンション上がってたの覚えてる。レトルトのやつだよな」


「そう! 甘くておいしいんだよね」


「うんめぇーーー!! 玉子焼きの塩加減も最高! 藤木って料理上手だったんだな」


「この日のために頑張ったんだよ」


「それって、俺のためって……事?」


「当たり前じゃん。ちょっとは後悔した? 私にさよなら言った事」


「よくわかんないよ。俺はインドア派だから、こういう風にわけわかんない事で連れ回されるの、なんか疲れる……。あ、ごめん」


 とはいえ、なんだかちょっと楽しくなって来てる自分もいる。いくら何でも『わけわかんない事』はないよな。空気読めよ、俺!!


 知らん顔で、おにぎりを頬張る藤木。


「あー! 梅干しだった! 当たり!」


「ふふっ。梅干しは当たりなの?」


 おにぎりにかぶりつく蒼。


「あ、なんだこれ? なんか……ガリガリする……。ぶふぇーーーー!!! 辛っっ!! 何これ、唐辛子??」


「当たりーー!! ぎゃはははははははーーーー」


 くっそーーーーー。生の唐辛子は鬼畜ぅーーーー!! 一瞬でも別れた事を後悔した自分をタコ殴りにしたい。


「ぶへぇぇぇぇぇ、からっ、あいててて、口の中が、ひりひりする、水、水っ」


 水筒の麦茶をゴクゴクとがぶ飲みする。


「はぁはぁはぁ……喉が、焼ける」


「ぷははははーーーー」

 俺を指さして大笑いする藤木。


「少しは落ち着いた?」

 

「まだちょっとヒリヒリするけど、ミートボールで誤魔化す」


「オレンジジュースあげようか?」

 自分の水筒を差し出す。


「え?」

 それはつまり……間接……キッス、じゃなくて!!


「お前~~~、ズルだろう! オレンジジュースはダメだろう」


「なんで? しおりにはカルピス不可って書いてただけだよ。オレンジジュースがダメとは書いてませーん」


「ふんぐぅぅぅーーーーー」

 憎たらしい顔しやがってーーーー!!!


「中和剤にポッキー食べる?」


「いい!! いらない! 大体、それ鳥さんの餌だろ」


「まぁね」


「藤木は、何をお願いするの? そのダチョウクラスの青い鳥に」


「何もしない」


「は?」


「幸せの青い鳥さんに逢う事が、私のお願いごとだから」


「なんだそれ? いつから探してるんだよ?」


「高校に入学してから。蒼君に会った時からだよ」


「は? なんのために探してるの?」


「教えない。見つかったらわかるよ」


「なんで教えてくれないの?」


「さて、なんででしょう?」


「全然意味わかんない」


 ミートボールを口に運ぼうとして、箸を止めた。藤木が怖い顔でじっと俺を睨んでいたからだ。


「な、なんだよ」


「酷いね、蒼君」


「はぁ?」

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