第2話 幸せの青い鳥がイメージと全然違う件

 ――7月2日、朝7時45分。森林の丘公園。


「蒼くーーーん!! こっちこっち~。おはよー」



 公園の入り口で、藤木が両手を振りながらぴょんぴょん飛び跳ねている。


 早朝だというのにやたらテンション高いな。


 ボーイスカウトのような服装に、背中には大きすぎるリュック。

 肩から虫かごを下げ、手には虫取り網を持っている。


「はいはい。おはよう(棒読み)」


「それではこれから、幸せの青い鳥を探しに行きます! 鳥取君、いいですか?(爽やかで元気いっぱいな声)」


「はい(やる気のない返事)」


「もしも見つけたら、3秒以内にお願いごとをすること」


「お願いごと?」

 捕まえるんじゃないんかい。何のための虫かごと虫取り網だよ。


「そう。お願いごとです! 蒼君は何をお願いしますか?」


 そりゃあ、こんなバカげたイベント、今すぐ終了させてください。早く家に帰ってアニメの続き観たい。または、早く童貞卒業したい。推しのアイドルが恋愛も結婚も、絶対にしませんように、どれにしようかな。


「台風で学校が流されますように」


「わかる~~~!! 学校、だるいよね。でも、私は学校大好きだよ。だって、蒼君に会えるから!」


 そりゃあ、こんなバカげた事に付き合う輩は貴重だしな。


「それでは、早速出発します!」


 虫かごと虫取り網、いる??


「ふわぁ、気持ちいい~。マイナスイオン大放出だね、蒼君!」

「まぁ、それはそうだな。街と比べたら1,2度気温差あるかもね」

「木漏れ日がきれい」

「あんまり奥に入らない方がいいよ。ここ、けっこう迷い込んで出られなくなった人もいるからな」

「そなの?」

「そうだよ。この森には魔物が棲んでるって噂だしな」

「あれ? 蒼君。ひよってんの?」

「ひ、ひよってねぇよ!」


「青い鳥さん。どこにいるのかな~。おーい青い鳥さん、君の大好物を持ってきたよ。おいで~」

 ポッキーを掲げて歩く藤木に、イヤイヤながらついて行く蒼。

 森の中をずんずん進んで行く藤木。


「あー、あのさ。その青い鳥ってイソヒヨドリの事だよね。それだったら、そんな森の奥じゃなくても、そこら辺にもいるみたいだよ。それに、ポッキーは食べないよ。餌は虫だから」


「そなの?」


「うん。昨日ネットで調べた。幸せの青い鳥のモデルになったのはイソヒヨドリ。昔は海岸沿いに生息していたそうだけど、この頃は郊外でもチラホラ見かけられるらしい」


 案外すぐ、見つかって、サクっと帰れるはずだ。


「ふぅん。でも私が探してる青い鳥はそれじゃないよ」


「え? うそー? 違うの? どんなの?」


「私が探してる青い鳥さんはこれぐらい大きい」


「え? デカ!! そんなに大きいの? ダチョウの青いバージョンみたいな感じ? バケモンじゃん。そんなの日本にいるわけないよ。もしいたら目立ってしょうがないよ。もう、大ニュースだ」


 声を張り上げる俺を無視して、藤木はぐんぐん歩き出す。


「イチゴ味もあるよー。チョコの方が好きかな~?」


「あのさ、ポッキー二箱でだいぶ金額行くけど、おやつは300円以内で収めたんだろうな? 自分だけオーバーしてんのズルだからな」


「へ? これはおやつじゃないよ。鳥さんをおびき寄せる餌だから」


「すげぇー屁理屈」


「鳥さーん。おいでー、一緒に遊ぼう。ほら! 蒼君も声出して!」


「鳥さーん、おいでー(棒読み)」


「鳥さーーん。おいで。怖くないよ~」


 こっちはこえぇよ。そんなデカい青い鳥。


「あのさぁ、もし見つからなかったらどうすんだよ? いつまで探す気?」


「見つかるまでだよ」


「だから、見つからなかったら?」


「見つけるよ、絶対」


 その自信はどこからくるんだよ!


 ――暗転――


 森の奥。


「ふわぁ、よく歩いたね。ちょっと休憩しよっか」

 藤木は、汗を拭き拭き木の下の木陰に腰かけた。


「しかしデカいリュックだな。二泊三日ぐらいの旅に出られそうだけど、何が入ってんの?」


「ふふ。ここにはね、私の愛が詰まってるんだよ」

 ピンクの水筒を口元で傾ける。


「こっわ! 重っ!」


「蒼くん、水筒、何入れてきた?」


「麦茶だけど」


「ふぅん、そっか」


「藤木は? 何入れてきたんだよ」


「内緒」


「あー、お前、さては、カルピス入れてきただろ! ズルだからな!」


 ガサガサっと音がする。


「うわぁ、なんか今通った。ガサガサって言った」


「あははははは~、蒼君ってびびりだね」


「う、うるせー」


「そこ、死体が埋まってるかも」


「や、やめろ~~~~~!!!(怯える)」


 トラウマが蘇る。あれはツチノコ探しの時だ。名前も知らない山に入って行ったらゴミ山で、猫ぐらいデカいネズミに遭遇して失神しそうになった。宇宙人探しなんて深夜にまで及んで、補導されたんだ。

『宇宙人を探してました』って警察に真顔で話して、ふざけるな!ってこてんぱんに怒られたっけ。

 高校入学して僅か1ヶ月で警察の世話になっちゃって……。俺の人生、どうしてくれるんだよ!!


「あれ? 藤木、何食べてんの?」


「へ? ポッキーだけど? 食べる?」


「…………そのポッキーは~~~~、鳥さんの餌じゃないんかーい!」

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