【朗読台本】ヤンデレ令嬢に寵愛されたあなたは、令嬢を全力で愛し抜く【フリー台本】

雪月華月

ヤンデレ令嬢に寵愛されたあなたは、令嬢を全力で愛し抜く

 その令嬢は、社交界の影の花と呼ばれていた。

成り上がりの、貴族の座を金で買ったと噂される家の令嬢であり

パーティでも、隅で佇んでいることが多く、暗いと言われる娘だった。


 その令嬢が今、私の前で恍惚とした表情をしている。

私と彼女がいるのはベッドの上だった。今日私と彼女は結婚をした。

半ば強引な政略結婚だった。結婚後の初めての晩、私はベッドの上で身動きが取れない。薬を飲まされたのか、細い腕の彼女にすら、あっけなく押し倒されている。


 彼女は耳元でささやいた。


「聞こえませんでしたか? 私の言葉……もう一度言いますから、ちゃんと聞いてくださいね。あなたはもう、逃げられないということです……私の腕の中で、一生囚われてください……

ふふ、何がなんやらわからないって顔をされて……あなたはいつもそうだった、穏やかで、太陽みたいで……鈍感で……私が愛していたなんて、まるで気づいてなかったんでしょう」


 予想もしていない言葉だった。私は思わず息を呑む。心臓が強く高鳴り、うるさいくらいだった。私は震える声で言った。


「君が私を……?」


 彼女はゆうゆうと頷いた。小さく笑い声を漏らす。

まるで、いたずらが成功した子供のような、同時に拭いきれない底知れなさを感じる声だった。


「ええ、私に愛されてしまったから、こんなことになってしまうんです」


 私の、何もわかってない表情を、彼女はうっとりと見つめる。

頬を撫でて、こう言った。


「ふふ、オカシイと気が付かなかったのね。じゃあ、じっくりと教え込まないといけませんね」


 彼女は馬乗りになって、私を抱きしめた。薄い衣類のせいで彼女のぬくもりを直に感じ、顔がカッと熱くなった。

 彼女は、私を堪能しているのか、熱い吐息を漏らした。


「あなたをこの腕で抱けるなんて、嬉しい……この温もりをどれだけ味わいたかったか……財力はあれど華のない私には、あなたは遠すぎた……」


 彼女は腕にぎゅっと力を込める。耳にしみ入るような甘い声で囁いた。


「いけませんよ……私のような女に優しさを与えては……ふふ、おぼえてないでしょうね、あなたは誰にでも優しかったから。影で戯言を叩かれていた私をさりげなくかばうだなんて、ね」


 口が動かない。そんなことない、ということが、うまく言えない……。

彼女は私の様子に気づかず、とうとうと語り続ける。


「私とても嬉しかったんです、それがあなたにとって大したことじゃなくても、私には十分なことだった……

募る恋は私をあっという間に飲み込んでしまいました……恋を知らなかったあの頃に、もう戻れません」


 彼女は私の頭を撫でた。愛おしそうに、確かめるように何度も何度も。


「好きです、愛してます……誰にも渡したくない、渡さない……あなたは私だけのもの……私しか見ないで、私しか触れないで……愛して愛して愛して……」


 私は眉をひそめた。彼女の愛が、彼女自身を狂おしいほどに変えていったのを感じて痛ましかった。しかし彼女は私の表情を別の意味で捉えたんだろう。自分を嘲るような、虚無感に満ちた笑みを浮かべた。


「あなたにとって家を救う政略結婚にすぎない相手に、こうも執着されて……嘆かないでいいのですよ……他の人が与える何十倍の愛を注ぎますから」


 彼女は耳に唇が触れるんじゃないかとおもうほどの距離で、愛を吐いた。


「ぐちゃぐちゃにしてあげます……私の愛に沈みましょうね?」


 彼女は雄弁だった。

 私の家が、急に財政的に苦しくなったのは、彼女の手回しで。その動機も他の女に愛されてほしくなかったという……


「太陽みたいなあなたを地獄に突き落としても、あなたが欲しかった……」


 彼女は自分を歪んでいると言った。自分の所業が地獄行きでも、私を愛することができれば嬉しいと、一途に本気で言ってるようだった。


 ……彼女は、私の気持ちに、気づいてなかったのだろうか……。


 薬で、重い体をほとんど精神力で動かした。そして彼女を押し倒した。

 無理な動きで反動が起きる。頭がくらくらする……それでも、なんとか彼女の方を見ると、彼女はびっくりしたように私を見ていた。


 顔がみるみる赤くなり、私の視線から目をそらそうとする。


「そんなに見ないでください……こんなことをした悪女でも……好きな人に見つめられれば、恥ずかしく、なるのです……。

嗤えばいいですわ……ここまでしておいて、純情な私のことを」


 私は彼女のことを、優しく抱きしめた。壊れやすいガラスを両手でつつむような。彼女が壊れないように慎重に抱きしめた。


「どうして……」


 彼女の声は震えていた。訳のわからない様子だった。

私は彼女に伝わるようにと願いながら、語った。


「あなたに、恋をしているからです……」


「私に……?! こんな社交界の壁の花に。何故っ」


 ああ、彼女は気づいてなかったのかと思った。

まあ、彼女にとっては些細なことだったのだろう。

 私は苦笑しながら彼女に、好きになったきっかけを囁いた。

 彼女は、眼を丸くし、困ったように笑った。


「そんな、些細な理由で……いえ、私も人のことを言えませんが、けれどあなたの周りはたくさん人がいたではありませんか……それなのに……」


「そうだとしても、私が愛してたのはあなただけですよ、エリジア」


 彼女は目をうるませ、自分にはそんな言葉はふさわしくないと言わんばかりに頭を横に振った。


「やめてください、そんな優しい言葉……嬉しいけれど、でも私はあなたの全てを壊したのですよ。あなたの今までを壊して、私のものに……」


 そうだ、彼女は私のこれまでを壊した。私に与えられたもの、私が築いてきたもの、全てを……だがそれでも。


「だとしても、私はあなたのものになれるのが嬉しい……この喜びの前に、ほかのことなんてと思う、罪深い私がいるんです。私はあなたがいればいい」


 神の御心ですら彼女を赦さなかったとしても、私は彼女を赦したい。

 その思いを込めて、私は彼女に訴え続けた。


「こんな私を赦すのですか」


 彼女は唇を噛んだ。感情をけんめいにせき止めるかのように


「こんな私を………」


 自責に襲われているような彼女に、私はいたわるように言った。


「ここまでして、ここまできて、私への愛がゆらいでしまったのでしょうか」


 ハッとした表情を浮かべ、彼女は頭を横に振った。


「……いいえ、あなたへの愛はゆるぎませんわ! 私はどんなことをしてもあなたが欲しかった……愛していたから……」


 はっきりと彼女はそう言って、それから恥ずかしそうにうつむいた。

この現実が本当なのだろうかと動揺しているようにも見えた。


「何でしょう……確かに私たちは両思い……ということになるのでしょうけど、あまりに急な展開で……」


「駄目ですか? 嬉しくないですか?」


 彼女はそんなことはないと言わんばかりに目を見開いた。


「う、嬉しいですわ、嬉しいに決まっています! 嬉しすぎて、おかしくなりそう……」


「私もです、あなたが、私の腕の中にいるんですから」


 彼女は私の言葉にしっかりと頷いた。

 そして私の大好きな、可憐な笑みを浮かべた。


「あなたは闇の底に落とされても、太陽だった……私を照らしてくれる

どうか、私と、ずっといっしょにいてくれませんか?」


 彼女の言葉に、私は言葉で返事はせず、ただ、静かにキスをした。

優しい、ふわりと触れるようなキスだった。


 彼女とくすくすと笑い合う。彼女はつぶやくように言った。


「お互い、もう離れられませんわね」

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