ある海の話
第1話 ある夜の話し
エギングで、甲イカ狙いを夕方行い。
日が落ちてから、太刀魚狙い。
その合間にシーバスを狙いながら、楽しんでいた。
そう、今日は楽しい金曜日の晩。新月で大潮。
「なかなか食わんな。ルアーをやめて
そんな事を言いながら、タックルボックスを開け、サビキ用の短い竿に仕掛けを作る。
そんな時、背中側から強力なライトに照らされる。
「ふざけんなよ。まぶしい……」
その車はすごい勢いで、岸壁に造られた車止めを越え、海へと突っ込んだ。
一瞬の話だが、突っ込んだのは白色、軽の商用バンの様だった。
一応、自分の車に乗せてあった、緊急用ハンマーを持ち岸壁にロープを垂らす。
ロープは二本。すでに海面は潮が引き、随分低い。相手に意識がないなら、体に一本結んで俺がもう一本を登り、後から引き上げることをしないと、背負ってなんぞ登れない。
財布とか細かなものは、車へ放り込み。海へと飛び込む。
少しの間、車は浮いていたが、すでに沈んでしまった。
だが、まだライトが見える。
潜ってドアを開くが、当然開かない。
フロントガラスも割れているが、取れてはいない。
運転席を割るのは怖いから助手席に周りガラスを割る。
息を吸いに上がり、もう一度。
再び潜り中へ入ると、ロック解除からの足で踏ん張ってドアを開ける。
運転席にくくりつけられている人。シートベルトを外して、椅子を倒して何とか引っ張り出す。
背中から抱えるようにして、一気に海面へ上がる。
そのまま、泳いで岸壁に近付く。
当然だが、飛び込む前に自分の車は、海に向けてライトをつけておいた。
彼女は意識がないので、腹と胸で結び、俺は先に何とか登って引き上げる。
濡れているし、意識がなく脱力していると重い。
だが、六十キロはないはず。頑張る。
息が切れる。
だが、休む暇も無く心拍と呼吸を確認をする。
どちらもない。心停止から三分が第一の境界と言われている。
先ずは血流の復活が優先。先に心臓マッサージ。
その後、人工呼吸。
女の人だが、ごめんなさい。
心マッサージと、人工呼吸。
それを繰り返し、その間に、電話をして消防で救急車。
時間的には、どうだろう? 三分を超えていたかもしれない。
うん? 心臓が戻った。
心停止から、三分が勝負と言われている。五分を過ぎるとダメージが残る可能性も高くなる。
自発の呼吸も…… できているな。運が良い。
クッション入りのレジャーマットを、彼女の下に敷く。
遅くなったが、警察にも連絡をする。
俺は医療の専門家でもないし、後出来ることはない。
人工呼吸とかの方法は、会社でAEDの設置した時とか、ボートの講習会で習った。人工呼吸に関しては、感染症の危険を器具等を用いることで排除するとは習ったが、普通、人工呼吸用マスクなんぞ、持ち歩いていねえよ。
「見たところ、同じ年くらいか?」
ちらっと、彼女を見る。
「事故か、自殺か……」
俺は、
名前のとおり、海も川も好き。
だが、仕事は大型重機のレンタル屋。
釣りが好きでも、漁師になろうとは考えなかった。
大変そうだもの。
こういうものは、たまにするから楽しいんだよ。
そんなことを考えながら、脈と呼吸を見ている。
ティッシュを、鼻先に垂らすだけの簡単なお仕事です。
するとまあ、呼んだから救急車がやって来る。
ざっと事情を説明して、心停止だったことを説明する。
「彼女の、身分証明とか保険証はありませんかね?」
「あの辺に車が沈んでいます。あるとしたらあの中です」
海を指さす。
「あーはい。受け入れてくれるかなぁ……」
隊員はぼやきながら、救急車は彼女を乗せて去って行った。
その後、警察がやって来た。
ざっと説明して……
「その方の住所とか名前は、分かりませんかね?」
「あの辺に車が沈んでいます」
さっきもしたが、海を指さす。
「あー。はいはい。本人は?」
海を眺めて、警官はため息を付く…… そして、顔は海を向いたまま、聞いてきた。
「さっき、救急車で運ばれました」
「そうですか…… 釣果は?」
「太刀魚一本だけですが、今日はもう無理ですよね」
「そうですね。こういうところは、今日みたいな感じで餌が来るから、魚も良い型でしょう」
この…… 最悪だ。
たまに聞くけどねぇ。イイダコが張り付くとか、カニがたかっていたとか……
まあそんな事があり、その日は疲れて帰った。
翌日には、連絡が来る。
「本人さんから、お会いして御礼がしたいとのことですが、お会いになります?」
まあ、なんちゃって救命措置が大丈夫だったのか、お医者さんに聞きたいし会ってみるか。
そんな感じで、病院へ出向く。
だが、聞いた病室がすでに片付けられていた……
「すみません。○○号室に入院をしていた方は?」
「えーと。
聞いたらどこかに、電話をし始めた。
「はい。まだ? ご面会の方が来ているようですが? はいはい。じゃあそう伝えます」
そう言って看護師さんは、またどこかに連絡する。
『患者様の松永 亜美様。三階ナースステーションまで、お越しください』
いきなり、館内アナウンスが流れる。
やがてやって来る彼女。
意外と美人さん。
「あっ来られましたね。ご面会です」
看護師さんが説明してくれた。
不安そうな顔で、彼女は聞いてくる。
「あの? どちら様でしょうか?」
「お体具合はいかがですか? これつまらないものですが」
そう言って、果物のバスケットを渡す。
「えっはい。ありがとうございます」
怪訝そうな顔をしながらも、受け取ってくれる。
「昨日の発見者です」
そう言うと理解した様だ。
いきなり頭を下げてくる。
「ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」
頭を下げる彼女だが、表情は芳しくない。
「まあ、ここじゃあなんですし、場所を移動しましょう」
そう言って、面会用ラウンジと書かれたところへ移動する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます