第6話 思い出したもの

 診察室へ入り、鹿目(かなめ)先生に事情を話す。

 先ずは、昨夜酔って道路で寝ており、雨で濡れていたこと。

 座薬25mgを入れるとき、奇妙な反応で受け入れたこと。

 そして、お尻に無数にある。昔から積み重なった傷。


「無論体を全部見ていないが、昨日母さんが風呂に入れたとき。騒いでいなかったから前には無いのだろう」

「そりゃ、DVか。それも悪質だな。自身が悪いから罰を受ける。繰り返されそれが当たり前にされる。マインドコントロールだな」

「俺もそう思う。何か理由を付けて。おまえに見られるのは、気に入らんが見てくれ」

「任せろ。じっくりねっとり見てやる」

「馬鹿か。前にそんなことを言って、大騒ぎになったんだろ」

「ああ。何もかも懐かしい。良いんだよ。病院の方は趣味だから」

「今は、介護メインだったな」


 そう言って診察室から出て、美樹を呼ぶ。

 だが、なんだか迎えに来て欲しそうだったから、迎えに行く。

 手を繋ぎ、再び診察室へ戻ってくる。

「ごめんね。めまいがして」

「良いよ。このくらい」

「何だ、大和が付き添いか?」

「あーうん。後ろは向いておくから」

 彼女とは、左手を繋いだまま廊下側を向く。


「バイタル。熱以外はOK。アレルギーと妊娠はしていませんね」

「はい」

「まあ確認のためにも。小水と。血液検査。それと、座薬25mgしか入れていないなら、追加するか。夜は、様子を見てもう一回かな。調剤出しておきますので」


 トイレはさすがに一人で行って、採血は検尿カップ持ちなので一人。

 そして。


「おおい。大和ちょっと来い」

「はいよ」


 呼ばれて病室に行くと、まだお尻が出ていた。

「おまえなあ。美樹。良いのか?」

「うん」

 腹ばいのまま。返事が返ってくる。


「見ての通りだ。証拠の写真と診断書は書く。病院としては、子供じゃ無いからうちに報告義務は無い。まあ、無論行っても良いが」

「あの、本当にDV? なのでしょうか?」

 美樹の問いに、俺が口を挟む。


「美樹おまえ。SMとか、そんな趣味があるのか?」

「えっ。そんなの無い」


「じゃあ、決定だ。うちの会社に弁護士さんがいるから、その人か専門家がいれば紹介でもして貰い、一緒に警察に行こうか」

「でも」

「今がきっと。良い機会だ。きっちりしておかないと、また戻ってきて、暴力を振るわれる事も考えられる」


 それでも、美樹は会社の取引相手の人だからどうこうと、うだうだ言っていたので、つい言ってしまう。

「今回のこと。そんなに大仰な物じゃない。君の小さな決断が、この先。これからの長い後の人生をよくする。きっと、そのための一歩になる。此処で踏み出せないと、ずっと人にだまされ。良いようにされる可能性だってある。美樹。おまえの普通の暮らしを取り戻すためだ」


 まあ、説得をして、その日のうちに、弁護士さんに連絡を取った。

 診断書を含めて、翌日処理をすることにした。


 ところが、その晩から、元彼からの着信が来まくる。

 証拠になるから、消音をして放置。


 美樹は、今。家の子供と遊んでる。

「いい加減にしないと、熱がまた出るぞ」

「はーい」


 夜が更け、スマホの着信も鳴りをひそめる。


 そして熱が出た。

「ごめんなさい。自分で試したけれど、入れられなくって」

 お腹に力が入ると押し出すからな。そっちが気にしなければ、こっちは別にかまわない。

 呼ばれて座薬を追加した。


「あの玄関。マジックで消してあったのは、奥さんなの?」

「ああ表札か? そうだ。丁度1年くらい前に、離婚届を置いて出て行った。帰ってくるかと1月ほど待ったが。帰ってこなくて、向こうのご両親と話をして届けを出した」


「そうなの。あっごめんね。こんな事」

 そう言って、顔を伏せる美樹。


「色々ごめんね。酔っ払いの介抱から始まって、お騒がせをして。明日も休みを取っているって聞いてびっくりしちゃった。10数年ぶりに会って迷惑ばかり」

「いや。あそこで君に会ったのは、ある種運命かとも思っている」

 そう言うと首をひねる、美樹。


「運命?」

「ああ。高校で離れて疎遠になって。返事を聞く前に、そんなことになったからな」

 そう言っても悩むかと思ったが、すぐに反応があった。


「えっ。あっ。ごめんなさい。あれは、若かったし。どうしても恥ずかしくて、返事が出来なくて。そのままにしちゃって」

 真っ赤になって、うろたえ始める。


「と、言うことは、話は通じていたのか?」

「あっ。うん」


 あれは、高校に入る前。卒業式の時だった。

 これでもう、しばらくは会えないと思い。秘めた思いを俺は美樹に伝えた。

 遠回しに言ってもこいつは、気がつかないかもしれない。

 そう思い。『ずっと好きだったんだよ。でも言い出せなくって。悪い。今から寮生活にはいるから。なかなか会えないけれど。俺と付き合ってくれないか?』そう告白をした。だが、ひたすらうろたえていた感じだったから、たしか『返事は急がなくて良い』そう言って、呼んでいる母さん達の元へ、手を繋いで駆けだした。


「まあ、そんなことを言っておいて、ちゃっかり俺は、25の時に結婚。まあ長男。柊が出来て、できちゃった婚だが。まあ今は子持ちだが、嫁さんはいない。ものすごく身勝手だがな。君の返事を聞きたくなってな。無論あのDVの話はでっち上げじゃない。医者もこりゃひどいって。言っていたしな」


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