第5話 解決へ向けて
部屋から出た後、大和は悩む。
ミスをすると、叱る? あれは幾度となく繰り返された傷だろう。
完全にDV案件だ。
本当なら、美樹が元気になれば、警察に相談に行くような事案だ。
だが、幼馴染みとは言え。10数年関わりが無く。
そこまで、首を突っ込んで良いものか?
「あのぅ。大和。着替えたけれど、濡れた方どうすればいい」
「ああ悪い」
受け取りに行って、熱を見る。
多少ビクッとするが、払われたりしない。
「大分下がったな。水分は取っておけ。それとな……」
「うん? それと。なに?」
「あーいや。明日も休めるなら休んだ方が良い。それに、帰っても一人暮らしなんだろう。家は、ちびどもが多少騒がしいが、気にならないなら居て良いから」
「あーうん。ありがとう」
受け取った着替えを、洗濯機にぶち込む。
無論下着は、ネットに入れて別に分ける。
さて、悩む気も無くスマホを取り出す。
「ああ俺だ。今日はすまない。だがな、明日も休む。うん? ああ。家族が熱を出してな。そうだ、試験は明後日に回してくれ。そうだ、勝手に進めるな。デリケートだから1H(ヘンリー)間違えれば、ユニットが飛ぶぞ。そうだ。冗談だがな。まあそういうことで頼む。あっそうそう。うちの弁護士先生。名刺を写メして送ってくれ。まあ、それは別件だが、頼むかもしれないから。じゃあな」
通話を切り、すぐに連絡ツールに着信が来る。さてと、相手の名前を吐くかな?
今日は平日。病院はやっている。
勝手に座薬を使ったから、事後承諾だが、知り合いの藪がやっている病院へ美樹を連れて行こう。
美樹にすれば、きっと良い迷惑だろうが、知り合いをあんな目に遭わされて黙っていられる俺じゃないんだ。
あーいや違うな。テーマとしては、若き日の初恋。その残滓とそれに起因する感傷かな。誘導されるのは、行きすぎた正義感か……。
「30歳前のおっさんが、何を言っているんだか」
俺は、自分の考えがおもしろくなり、へらへらと笑い始める。
だがそれと共に、よみがえる。
封じていた思い。
高校が、何故か1年生は全員全寮制だった。
先輩に色んなことを習った。基礎的なものは使い方を1年のうちに覚えろとか言われて、気がつけば1年2年と年数が経った。それと共に埋もれ。諦めた思い。
「そうだな、だが。俺は子持ちのおっさん」
また、封じた方が良いのかもしれないな。
部屋をノックして、返事が聞こえたので入る。
「スポーツ飲料飲んだか? さすがに二日酔いも治まっただろう」
「意地悪。飲んだし、もうさすがに吐き気も出ないわ。今はこの熱のせいかもね」
「それはよかった。じゃあ病院へ行くぞ」
「えっ」
「雨に濡れて、熱が出た。肺炎も怖いし。寝ていたのが道路だからな。感染症の危険性もある。それと、座薬を25mgとはいえ使ったんだ。おまえを連れて、医者へ怒られに行く」
「あーうん。分かった。けれど、この格好」
「病人だ。着飾っていく方がおかしいだろう。それにあの病院は、人がいないから大丈夫だ」
そう言うと、怪訝そうな顔になる。
「心配するな。行くぞ」
「あっうん」
靴は乾いていたが、スエットにパンプスはおかしいので、突っかけを貸す。
バッグの中に、保険証はあったそうなので、車に乗せ病院へと移動をする。
「こっちだと、車が有った方が便利だよね」
「そうだけど。最近。安全装備が山盛りで、軽自動車でも諸々込みで二百万円を超えるんだぜ」
「そうなの? でも、体調が悪いときには楽」
「だろうな」
そう言っても、病院までは十分くらい。エアコンが効く暇も無い。
「大丈夫か?」
手を差し出すと、摑まってくる。
少し、アプローチを進み。
玄関へと入る。
「あら、いらっしゃい。大城さん。今日何?」
受付さんは、すっかり顔なじみで、いつもこんな調子。
当然平日は、10畳近くある待合に人はいない。
「ああ。彼女。近所の人なんだけどさ、熱があって座薬を使ったんだ。事後で悪いが、検査をしてほしくてね」
「まあ熱があるとね、不安だから。でも。たまに合わないと、薬疹とかショック、アナフィラキシーとかでるから。駄目ですよ」
※本当のことです。小説の流れ上。座薬を入れましたが、危険はあります。ご注意ください。法律上は、2005年に坐薬の挿入は医療行為から外れました。
「いや、すまない。39度近くてね」
「あらまあ。すると、また上がるかも」
「だから、病院に来たんだが」
そう言って笑う。
「はっ。そういえば、此処病院だったわ」
そう言って笑い出す。
靴を脱ぎ、上に一段上がる。ベンチタイプの椅子に座り。待合で待っていると、先生が、自宅の方から来た。
「おおっ。大和。嫁さんか?」
人を見るなり、開口一番これだ。
「いや、残念だが違う。近所に住んでいた幼馴染みだ。ちょっと色々あって、家にいるが。それでだ、ちょっと話がある」
そう言って、一緒に診察室へ向かう。
一緒に来ようとした美樹と、繋いでいた手を離し、そのまま手で制す。
「ちょっと待って」
それだけを伝える。
何故か彼女は、離した手をじっと見つめている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます