第11話 特定厨ウィリアムに怯える悪役令息

-ジークハルト-



「ポチ=デズモンドは必ず引き摺り落とせる」

「さ、流石ウィリアム殿下です!」

「……」



 目の前の誰もが恋をしそうな天使の顔をして、悪魔のような微笑みを浮かべる王子ウィリアム。後ろの小さくなってヨイショをしているウィリアムの側近がヘンリー。

 正直嫌な予感しか無いが、実家をどうにかしたいと頼ったのは俺様だ。

 話を聞く事にする。



「黒い噂の絶えないポチだが、ポチが悪事を働いていたと言う証拠は人身売買以外今までない。正直、お前の父上は相当警戒心が強くて、聡明だ」



 まあ実際、家族の俺ですら転生した事に気づいて数日経ち、ようやく自分の家が異常な事に気づかなかったからな。

 父上の仕事は悪い意味で完璧なんだと思う。でなかったら、もっと早くに俺が証拠見つけてポチを追放している。家族にすら、自分の行った悪事は全て秘密にしているのだ。



「それで、そんな父上を引き摺り下ろせると言う自信はどっから出てくる?」

「ああ。それはさ、君も“ポチ=デズモンドのmorning routine”という雑誌が発売されているのは知っているだろう?」

「--え?」



 なにそれ?初耳なんだが?

 あの人、息子に黙ってそんな陽キャすぎる本を発売してたのか。追い込まれすぎだろ。



「フッハッハ!まあそう、げんなりするな。気持ちは分かるけど、俺の父上もmorning routine雑誌出してたし」



 ウィリアムも意外と嫌そうな顔をしていた。おや、意外だ。この人にも恥じらいとかあったんだ。



「この国の王侯貴族はどうなっているんだ?まったく」

「本当に、そろそろ締め付けなければ、いずれどえらいことになると思うよ、やる時はやらないとね!フハハ!」



 ウィリアムが悪魔の笑みを浮かべ、後ろにいるヘンリーが瞬時に距離を置く。

 どうやら、このオーラを警戒していたしい。確かに、この王子、とても人の心を持っているとは思えない。



「まあそれはいい。それよりさ、routineと言うことは、ポチ=デズモンドの行動パターンをある程度読める資料が出てきたと言う事だ。そこから、ある程度彼の考え方の癖みたいなものを見つけ出せたんだ」



 なんだそれ?ここまで警戒していて、自ら弱点を晒したって事か?



「この本自体は罠の可能性は?」

「もちろん、その可能性も考慮した。デズモンド家に配置したスパイにも確認して裏は取れているよ」



 流石に、王族だもんな。うちの家にも情報収集する用のスパイくらいいるか。

 それにしても、なんでそんな、弱点の塊みたいな本をよりにもよって父上は出してしまったんだろ?

 やっぱり、うちのイメージが壊滅したからだろうか?イメージ回復に追い込まれすぎだと思う。最近忙しくすぎてるし、ちょっとは休んだほうがいい。

 父親のmorning routineとか言う恥ずかしすぎる暴露を見てしまって、大ダメージを喰らってしまった俺のためにも。



「ちなみにこれ、結構売れてるらしいよ。直近の領地経営のお金は賄えるらしい」

「まじかよ」



 売れることを分かって、計算してやっていたら、結構すごいな。ただの追い込まれた人では無かったのかもしれない。

 それにしても、おっさんのmorning routineのどこにそんな需要があるんだか?

 本当に終わってんな、この国。



「それで、morning routineの雑誌に写っている製品の写真やコメントからある程度読み取ったんだけど、彼が取引している商会はどうやら、3つらしいんだ」

「ほーう、そんな事まで分かるのか」

「うん、仕入れ先とかを読み取ったら分かったよ。そもそも、貴族用の製品を売っている紹介は王家が全て管理しているからね。これくらい調べれば分かった」

「なるほど」



 確かに父上もここまでは想定できていなかった可能性は高い。

 まさか、morning routine雑誌から、自分が取引している商会が全て炙り出されてしまうなんて?ウィリアム殿下は特定厨かな?

 怖すぎる。絶対怒らせないようにしよう。



「まあ、そんな感じだからね。じっくりこの3つの商会を調べていけば、いずれボロが出るだろう。長期的に締め付けを強くしていくつもりだから、安心して待ってると良いよ」

「ハハッ……、ハハハッ!そうですね」



 もうその発言が安心できねーよ。

 俺様はヘンリーをチラッと見ながらそう訴えると全力で頷いてきた。知らない間に俺たちの間には謎の友情が芽生え始めている気がする。

 もしかしたら、ウィリアム殿下よりもこっちの方が仲良くなれるかもしてない。



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