第8話 実は心がクリーンかもしれない悪役令息(side正義)
-side ジークハルト-
「--大変です!!ボス!!」
ここ--ハワード王国の王城の一室に、とある騎士が駆け込んできた。
短い金髪に碧眼。年齢は17歳。彼の名はタマ。ボスと呼ばれるの忠犬--もとい密偵である。
「なんだ?騒がしい」
彼のボスと呼ばれる人物が呆れたようにタマを見つめる。白髪に赤い目。初老ほどの年齢に見える彼の名はアクセル。ハワード王国の宰相である。
「ジークハルト=デズモンドのことです!」
「む!?奴に何か動きがあったのか?」
宰相の忠犬……ではなく、忠臣タマはジークハルトを監視している。これはこの国の国王陛下の指示である。
ちなみにジークハルトはタマの存在に当然気付いている。彼にとってタマは赤子同然の相手なので、ほっといても大丈夫だろうとスルーしているだけだ。なかなかに、ジークハルトものほほんとしている。
「それが、ジークハルト様がエンシェントドラゴンをテイムしたところを見てしまったのです!!」
「なに?」
「間違いありません!この目で見ました!!」
「そうか……、お前がいうならばそうなのだろうな」
宰相は少し考える素振りを見せる。
ちなみに、ジークハルト達は国王にバレてしまわないように隠そうと努力しているのだが、ジークハルト自身がタマをスルーしている時点で無駄であった。強者ゆえに中々に脇が甘い。
「エンシェントドラゴンと契約した彼はこの国を滅ぼせる力を持っています!!今すぐ処理すべきです」
「ああ……、いや、まて」
“ああ”と返事した事を肯定と捉え、すぐにでも行こうとしたタマを呼び止めるアクセル。タマはくるっと振り返り息を荒くしてゴーサインを待っている。その姿は完全に忠犬。
「どうしたんですか?」
「いや……、な。私はドラゴンというのは一度も見たことがない。だからこれは本で読んだほとんど伝説上での言い伝えの話になるのだが……、確かドラゴンは確か心眼を持っているだろう?心が読めたはずだ。心がクリーンではないとドラゴンと契約などは不可能と書いてあったはずなのだ」
「--は?……何を、相手はあの悪名高きポチ=デズモンドなのですよ!?俺の父の敵!!」
タマの父親はポチにやられたので、タマはポチを恨んでいる。ポチもまた、宰相の忠臣であるタマの事を目障りだと思っているためタマを消そうとしている。
つまるところ、ポチとタマは非常に仲が悪かった。今はタマがアクセルによって、ステイの状態にされているため、ポチも手出しはしてこないが、アクセルがいなければ大事になっていただろう。なにせ、タマは一般人にとってはとても強くて優秀な密偵だからだ。
なお、タマというのはコードネームで実際貴族としての名前もある。タマはホワイトワーク学園の生徒なのだ。
「分かっている。しかしな……、もしジークハルトをこちら側に引き込めたら色々やりやすいのだ。ほら、彼はウィリアム殿下と仲が良いだろう?彼に手を出すとウィリアム殿下が黙っていない。彼を潰すよりも味方につける方が得策だとは前々から考えていたのだ」
「むむむ……、そう言われるとそうですね」
タマはしょぼんと項垂れる。少し前の自分自身の行動を反省したようだ。
「まあまあ……、そう落ち込まないでくれ。こちらも最初、彼を潰す事を想定していた。しかし、エンシェントドラゴンをテイムできたという事は意外と彼はクリーンなのかもしれない」
「そうですね……、確かに」
なんの理由もなくエンシェントドラゴンは人間にテイムされないだろう。余程ジークハルトが素晴らしい人間であるという可能性が出てきたと2人は判断する。
「いずれにせよ、もう少し情報が欲しい。引き続き密偵を頼む」
「かしこまりました。バレないように上手くやります」
既にジークハルトにはバレバレなのだが、タマは今日も健気に密偵の仕事に励むのであった。
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