第6話 姫のピンチを救ってしまう悪役令息

-side ジークハルト-



「初見は帰れなのだーー!」



 今、俺たちは絶賛ピンチである。

 ダンジョン探索をしていたら、偶然遭遇してしまった緑色のドラゴンに初見は帰れと言われながら、ドラゴンビームを撃たれているのだ。



「あわわわ!」

「冷静になれ。エリーゼ」

「でも、相手はグリーンドラゴンよ!?」

「まあ、気持ちはわかる」

「ですわよね!?」



 そう、そこが疑問なのだ。

 ドラゴンの中でグリーンドラゴンというのは本来最弱の部類だ。通常俺の魔法だったら一撃で沈んでいるはず。

 しかし、目の前のドラゴンは俺の攻撃を喰らってもピンピンしている。



「わかる、わかるぞ」

「は?」

「なぜ、あんな雑魚がこれだけ強化されているのか?」

「はっ……?雑魚?」

「うむ?グリーンドラゴンの割に、ブラックドラゴン以上の強さを持ってそうという話だよな?」

「全然分かってない!!」

「へっ……?」



 何がだ……?

 そうエリーゼに問おうとした時。



「きゃっ……!」

「アリス!!」



 ドラゴンはしっぽを振り回し、アリスの事を壁まで突き飛ばしてた。



「しまった……!!」



 ついついエリーゼの反応に気を取られてしまったのだろう。一瞬ドラゴンへの反応が遅れてしまった。

 ドラゴンはそのまま、追撃しようとアリスにつかずき、手を挙げる。



「ひっ……来ないで」

「アリス--!」



 --ドシン!!



 アリスがドラゴンの手で潰される……前に、どうにか俺は助ける事ができた。



「大丈夫か?」

「ジークハルト君……!」



 意図せず、お姫様抱っこになってしまって申し訳ないがそうも言ってられないので、仕方ない。



「むむ?やれてないのだ?逃げられたのだ?待つのだーー!」



 ドラゴンはこちらに向かって走ってきて追撃をする。



「むむ……」



 このまま、攻撃され続けたらいずれは支障が出るだろう。

 アリスを抱えたまま、こいつを倒すのは大変だろうし、仕方ない。

 知能も高そうだし、一旦対話を試みるか。



「まあ、待て。落ち着けドラゴン」

「む?お前、竜語を話せるのだ?」

「ああ」

「やりよるのだーー!」



 俺が竜語を話せることがわかると攻撃をやめてくれた。

 尻尾をブンブン振っているというところを見ると、ずいぶんお調子もののドラゴンのようだ。



「お前の名前は?」

「我の名前はドラだもんなのだー!」



 うーん、その名前の元になったのは、あのキャラなのか、あのキャラなのか。



「ちなみに、好きな名前は?」

「どら焼き」

「そっちか」

「と見せかけて、ずんだ餅なのだー!」



 はい、なんか色々アウト。



「いつもはどら焼き好きの振りをしているのだ。カモフラージュなのだ」

「必要か?そのカモフラージュ。」

「普段は誰にも聞かれないからいらないのだ」

「だろうな」



 色々とツッコミたいが、今はそんな時間はない。なにせ、授業中なのだ。今の戦闘だけでもかなりの時間のロスだろう。

 課題までそこまで時間が残っているわけではない。



「誇り高きドラゴン。悪いけど、ここは見逃してもらえないか?」

「むむ、お前、気に入ったのだ。よかろうなのだー」



 良かった。



「じゃあ……」

「た・だ・しーー」



 ドラゴンは低音でゆっくりと条件を言おうとする。

 うわっ……、そういうやつかよ。

 思わず身構える。



「我を連れていくのだ。仲間に加えるのだ」

「へ?」

「よろしくなのだ!テイムするのだ!ジークハルト」

「ああ、別に良いが。というかなぜ俺の名前を……?」

「鑑定スキル持ちなのだ」

「かっ……、ということは、お前まさか、エンシェントドラゴンか」

「そうなのだーー!この緑色の体はカモフラージュなのだ!!」

「そうだったのか」



 エンシェントドラゴン。

 言わずと知れた最強のドラゴン。

 永遠の命を生き、信仰対象にもなりうるドラゴンである。

 本来は神々しい透明感のある銀色の姿をしているが、このドラゴンは姿を変えているらしい。変わっている……。



「はやく、テイムするのだ!名前を決めるのだ!!」

「あ、ああ……、そうだな、ズンドラゴンとかどうだ?」

「素敵な名前なのだ!!それに決めたのだ!」

「分かった。じゃ、テイム!!」



 --ピッカーー!



 まばゆい光があたりに光った後、ズンドラゴンと魔法的な繋がりを認識する。



「成功したようだ」

「やったのだーー!よろしくなのだーー!」



 こうして、ダンジョン探索授業を受けていただけだったのに、なぜか流れでエンシェントドラゴンが仲間に加わったのだった。



--コソッ!

「どうやら、とんでもない事が起こっているようね」

「ええ……、そうですね」

「それはそれとして見ました?さっき、ジークハルトがアリスをピンチから救う流れ」

「もちろん見ていましたよ。あんなのされたら」

「「惚れてまうやろ!」」

「ですわね。竜とも仲良くなってしまわれたようだし、ジークハルト……もう完全に卑怯ですわ」

「ですねえ。この状況、我々にできることは、2人を後方で腕組んで見守る事くらいでしょうか?」

「ですわね。そうしましょう」



 エリーゼとせバスがそんな事を話していることはつゆ知らず、俺たちはズンドラゴンを仲間にし、無事ダンジョン課題もクリアして地上に戻るのだった。



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