第3話 ここから入れる保険を探す悪役令息
-side ジークハルト-
「はあ……、憂鬱だな。戦場に行くのは」
俺様は今日も学園に通う。
正直、学園は俺様にとっては戦場のような場所である。はっきり言って、とても怖い魔境だ。
というのも、貴族の学校というのは往々にして、足の引っ張り合いが起きる場所だからである。
隙を見せれば、ある程度身分が高いものだろうが、すぐにやられてしまう。
幸にして、我が公爵家を恐れる者は多いから今のところ俺様に被害は出ていないが。
今まで無事で良かった。本当に良かった。
俺様の唯一の取り柄である高身長で人を威圧し、睨みつければ、人は寄ってこない。
これで、大体の陽キャは撃退できる。正直、初対面の人相手に、コミュ力を発揮して、愛想をよくすることなど、出来ぬのだから、この戦法を取るしか無い。
コミュ力お化けのあいつらは、まさしく、化け物か何かだろう。
「おはよ!ジークハルト!」
「ゲッ……!」
そんな俺でも、撃退できない存在はいる。
俺様よりも唯一身分が高い存在。
そう、王族だ。
第二王子のウィリアム。
友達ではあることは認める。彼も、俺様のことを友人だとは言ってくれている。
しかしだ。こちら側から、手紙を送っといて、なんだが、リアルで会うのは、はっきり言って無理すぎる。
「ゲッ!……ってひどいなあ。いい加減慣れてくれても良くない?」
「無理だ……、無理です、殿下」
「ほら、敬語もやめない?従兄弟同士だし、そこまで身分の違いもないでしょ?」
そうなのだ。あろうことか、俺様は、この陽キャとなぜか従兄弟同士。母親が現国王陛下の妹なのだぞ。それも本当に無理。
「それでさ、ジークハルト」
なぜか、そのままのノリで、勝手に話を本題に入ろうとするウィリアム。
え?まさか、俺様の気持ちは無視ですか?
嫌な予感がするから、出来れば聞きたくないけど、止めるだけのコミュ力もないから、そのまま話を進めることを許してしまう。無念。
「なんですか?」
「お茶会に参加してほしんだよね。ヘンリーも呼ぶから、2人きりで気まずくはならないから安心して?」
「いや、すまん。それは本当に無理」
「ええーー?どうして?」
ウィリアムだけではなく、他の人交えてのお茶会だと?余計にハードルが上がっとるわ!逆になんで、そのお茶パーティに俺様が、行くと思ったんだ?
「あれだ……、3人でお茶会と言うのは、ちと多くないか?」
「えーー?お茶パーティって言うからには、3人って最低人数だよ。だって、パーティなんだし」
ぐうぅぅぅ……、正論かもしれぬ。
本当に、行かないといけない流れになりそうだ。こっから、入れる保険は果たしてあるのだろうか?
「しかしだな、ほら……、いきなりヘンリー殿と会うのが、パーティというのもハードルが高くないか?もっと、こう……、授業のグループワークで一緒になった時に軽く話すとか」
そう!ナイス言い訳だ!俺様!いきなり、パーティはハードルが高すぎる!
そうだそうだ!
「えーー、だって、君とグループワークやっても、一言も話さない時あるだろう?君ったら、さっさとグループに入れて貰えば良いのに、いつも最後の一人まで残っているし」
そうだったぁぁぁぁぁ!!
その可能性を忘れていた!!盲点だった。グループワークで楽しくわちゃわちゃやっていたのは、前世の話。
今世の俺様は、周りにビビられまくる、悪の大魔王……すなわち、ぼっちなのだ。
「むむむ……、しかしだな」
「しかしも、何もないよ!ただ、コミュ障を発揮して、パーティに行きたく無いだけじゃないか!そんなんだから、周りに誤解をされて友達が出来ないんだよ!」
ぐ、ぐはああ!バレてるぅぅぅぅ!いきなり、急所目掛けて、攻撃を放ってきた。
「で、でも、それってあなたの感想ですよね?」
「うん?そうだけど?」
ウィリアムは何を当然のことを?と言わんばかりの目を向けてくる。
そうだった……、王族のお気持ち表明はこの国において、非常に重大な意味を持つ。現に、一緒について来ている護衛の人もさっきからはよ、お茶会の参加を承認しろ……、と言わんばかりの目を向けてくる。
こいつ、強すぎるだろ。
結局、俺様はごねた末に、明日の放課後、お茶会に、参加することになったのだった。保険には入れなかった。
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