第2話 手紙の返信が丁寧すぎる悪役令息(side生徒会)
-side ウィリアム-
「そもそも、手紙のリプライが丁寧すぎるんだよね」
ホワイトワーク学園には、極悪非道の悪役令息がいるという噂だ。黒髪黒目の見た目麗しい顔で、成績優秀ではあるが、高身長で人を威圧し、睨みつける。極めて愛想が悪く、黒い噂の絶えないデズモンド公爵家の嫡男。俺の友である、ジークハルトの事である。
……まあ、噂は、あくまでも噂でしかない事が、これからも分かる。
隠しきれない、真面目で誠実さ。彼の人柄が分かる手紙に、思わず笑みが溢れる。
「ウィリアム、ジークハルト様からお手紙の返事はどうだった?」
「ああ、ヘンリー。彼の事はやはり助けようと思う。決めたよ」
僕の名前はウィリアム。一応、この国の第二王子だ。今はこのホワイトワーク学園の生徒会室で、生徒会長の仕事の合間にティータイムをしている。
この前は、友人であるジークハルトが、彼の父親である、ポチ=デズモンドをどうにか追放している事を察したので、援護をしようと手紙を送ったのだ。
ちなみに、隣にいるのは、俺の護衛役であるヘンリー。赤い髪テンパーで少しチャラそうな見た目の騎士である。
「でもさーー、相手は、あの悪名高き、シュタイン公爵家のジークハルト様だよ?ウィリアムが、親密に連絡をとっていたら、色々な貴族にあらぬ誤解を与えてしまうと思うんだけど……」
「あはは……!そうかもしれないね」
「だったら……!」
「でも、おそらく、彼は悪く無いよ」
「なぜ?」
「だってほら、見てよ、この手紙の返信」
そう言って、僕は右腕である彼に手紙を見せる。そこには、まるで、仕事で苦労した経験のある、しっかりとした社会人のような、ビジネス形式に沿った、真面目すぎる文章が書かれていたのだ。
元々、彼はそんなことできる度胸も無いヘタレだと思っていたが、こんなの、送ってくる時点で、疑うのも馬鹿馬鹿しくなるだろう。
「……字がとてつもなく上手いな。それに、返事も丁寧だ。……いや、丁寧すぎないか?文章形式のマナーからも、文章からも、教養を感じ取れる」
ヘンリーは少し驚いたように、手紙を見る。ふふん。そうだろうそうだろう。彼の字は達筆でとてつもなく、上手いのだ。今時、王宮の文官でもここまで字は上手く無いだろう。教養も、ウィットに富んだ文章を書いていて、彼の手紙を読む度に、僕自身もとても勉強になる。
「だろう?彼は、学園ではヘタレな本性を隠して、舐められえないように、人に近づけさせないくらい怖い悪役オーラを放っているけど、実はとても真面目で良いやつなんだ。それが残念ながら、文章に表れてしまっている」
「ほほう、そんなイメージはなかったな。でも確かに、この文章を見るたびに、隠しきれない良い人オーラというやつがでてる気がする。ははっ……!文章が丁寧すぎる悪役令息というのは、物語でも聞いたことがねえな」
「今回の一件だって、彼は知らないと言っていたし、すでにある程度父親であるポチがやったということの裏も取れている。彼はこの通り真面目だし、すでにこの件もデズモンド公爵家は揉み消せているから、表に出すことなく、ポチを追放するだけで、裏で処理すればいいと思ったんだよ」
正直、デズモンド家の経済力、軍事力は王家にとっても、失うにはあまりにも惜しい。
トップが人身売買したのは、見過ごせないが、あの家を取り潰すのはあまりにも庶民への影響が大きすぎるだろう。
だから、トップを真面目で誠実な彼にするのが、一番穏便な解決の仕方だと僕は思っている。
そのためには、彼の悪役令息という評判をなんとかしたいんだけど、彼はどうも進んで悪役令息になろうと思ってそうなんだよね。
自分のことも、“俺様”というし……、なんか、謎に声を作っている気もするんだ。よく、作り声の地声の男性にしては、やや高めの声が出ているし……。うーん。困った。
「なるほど……、彼の今の評判だと、引き継いだ時、他の貴族達からはいろいろ言われるだろうが、こうしたマナーのしっかりとして、苦労をした経験のあることがはっきり見て取れる人間だったら、信頼を勝ち取れそうだし、大丈夫だと。実際に、色々裏では言われているだろうが、それでも彼の成績は、落ちることなく、学年で主席。戦闘訓練を見る限り、メンタルも強そうだしな」
「そうそう。こんな苦労していて、優秀な人を、助けないわけにはいかないだろう?」
「確かに」
「まあ、とりあえず、彼とお茶会をしながら、話をすり合わせるか」
「ほどほどに、手加減しなよ。ウィリアム」
「まあまあ……」
まあ、彼は頑張って、キャラ作りをしているみたいだけど、周りがそれを理解して付き合えば良いだけの話。手始めに、まずはヘンリーと打ち明けさせてみるか。彼の性格的に多少、荒療治になるのは仕方ない。
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