Ⅵ
――森の中を駆ける蒼空たち一同。
数分も経たずに開けた場所に出る。そこには薙ぎ倒された木々と約8m級の大きさをしたトロール。そのトロールの前方には4人の学生たち。彼らこそが、少年が誤って森に転移させた者たちだろう。
――いた……けど、どうにかして注意を逸らさないと!――
考えるよりも行動を起こす大人たち4人。彼らは、トロールの背後を囲むようにして、間隔を開けて広がっていく。
左からヤクザ、大和、少女の父親、一番右側に槍壱。彼らのそのすぐ後ろには狐と少年。蒼空、春宮、叶の3人は、トロールから少し離れた草陰に隠れて様子を窺う。
だが、本当に倒せるのかと蒼空たち一同は少し不安になる。
それもそのはず、トロールの大きさは8m級。岩のようなざらついた黒い肌には、所々に苔や草が生え花も咲いている。黒色に伸びたボサボサで痛んだ髪に、遠くの匂いも嗅げそうな大きな鼻、耳も沢山の音さえ拾えそうなほどに長い。
濃い緑色をした目は鋭く、口から生えた無数の牙は何でも砕けそうなほど鋭く尖っている。腰には汚れた大きな布を巻いており、その布地の上からは誇張するかのように沢山の
極め付きは、ゴツゴツと硬そうな巨体。手首には鉄の腕輪を付け、手の平には大木で作られた5mの棍棒を握って、それを所構わずに振り回している。
「やっぱりこれ、逃げた方がいいんじゃ――」
蒼空の案も虚しく、トロールが棍棒を振り回して周囲の木々を薙ぎ倒していく。
「下手に逃げるより、じっとしていた方が安全ですよ……」
春宮の冷静な判断のもと、3人はその場で待機して様子を窺うことにした。だがどうやら、トロールが暴れ出した原因を作っているのは、学生……と言うより
トロールが振り回す棍棒を必死に躱す大人4人。それぞれ散開し各位置に就くと同時に
「危ない!」
思わず蒼空が叫ぶ。
ヤンキーたち4人が潰されるの見ないように目を覆う春宮と叶。
しかし、その心配を余所に槍壱が「任せぇ!」と叫ぶと、瞬く間にヤンキーたち4人の前に移動して、振り下ろされてくる棍棒を両手で持った十文字槍で弾いた。
トロールと槍壱は互いに、弾かれた反動で
槍壱の周りには砂煙が巻き上がる。どうやら、移動の際に【ユニークスキル】“神速”を使用したらしい。
そして、その砂煙が晴れると同時に後ろの4人に顔だけ向けると、ニヤリと歯を見せながら笑う。
「おまっとおさん」
槍壱の顔を見て驚愕するヤンキー4人。何故なら、彼らは彼のことを知っていたからである。
だが今は、それを説明している暇はない。この話はまた近いうちに。
さて、槍壱は再びトロールの方へ向き直ると、両手に持った十文字槍を挑発でもするかのように勢いよく振り回す。
すると、たちまち砂煙が巻き上がり辺り一面を覆っていく。ヤンキーたち4人は、砂埃が入らぬよう目や口を手やハンカチなどで覆う。
だが、槍壱が槍を振り回すのには理由があった。それは棍棒を弾いた際に、反動で腕が痺れたのを誤魔化すためである。
――結構きっついでこれ――
内心そう思いながらも、両手に持った十文字槍の穂先をトロールの方に向けて、構えの体勢を取る槍壱。トロールもヤンキー4人から槍壱に目標を定め棍棒を振り翳す。
すると、「カチコミじゃあ!」と叫びながら、大鎌を担いでトロール目掛けて駆けるヤクザ。その様子を見ていた大和が呆れたようにため息を吐くと、すかさず彼の援護へと向かった。
3人が行動を起こしている中、叶の父親は、トロールに一定の距離まで近付くと、帯刀している黒色刀の鞘を左手で握り、柄に右手を添える。
それから、左足を少し下げ前のめりになると、その場でじっとチャンスを窺っていた。
その様子を見ていた蒼空は、好奇心から叶の父親に【ユニークスキル】“鑑定”を使用すると彼の[ステータス]を覗き見た。
【ユニークスキル】
蒼空は、彼に相応しい【スキル】だなと納得した。
さて、大人たちが注意を引いている間、自称神の少年はヤンキー4人のいる場所へと向かう。それから蒼空たちの時と同じように[ステータス]や【スキル】のことを簡単に説明し、装備品なども合わせてそれらを彼らに与えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます