不良たち4人は、最初こそ驚いていたものの、理解力が早くすぐにそれらを使いこなすと、少年の方に向き直り笑顔を見せながら詰め寄っていく。ヤンキーの1人、リーゼント頭の男が少年の胸倉を掴み締め上げる。


「そんなんしてる暇ないで!」


 槍壱がヤンキー4人に注意を促すが、トロールはお構いなしに彼ら目掛けて棍棒を振り翳そうとする。


「そうはさせへんで!!」


 大声で叫んだ槍壱は、両手で構えている十文字槍を片手に持ち替えると【ユニークスキル】“神速”を使用し、棍棒を振り翳そうとしているトロールの右腕目掛けて思い切り投げつける。


 瞬きする間もなく飛んでいく槍は、右腕に刺さるどころか貫通して腕を捥いだ。その衝撃で蹌踉めき足が絡れると、トロールは後方へと倒れ込む。


 そこへ、そのチャンスを逃すまいと、ヤクザがトロールの背中に飛び蹴りを入れる。そのおかげでか、体勢を元に戻したトロールが残った左腕で棍棒を拾うと、激しく咆哮する。


 どうやら、更に怒りが増したようだ。


「なにしてんねん! 自分、阿呆なんか!?」

「うるせぇっ!! 黙って見てろ!!」


 ――物は試しだ……――


 何か策があるのか、捲り舌で暴言を吐き捨てると、これほどまでにない笑みを見せる。宙で身体を右側に捻り一回転すると、担いでいた大鎌をトロールの左腕目掛けて投げつける。


「うらぁッ!! 喰ってこい!!」


 ヤクザがそう叫ぶと、大鎌は縦回転で飛んでいく。回転力をどんどん増していくその大鎌は、黒色の影を纏うと、やがて牙を剥き出しにした獣の形に変化して、トロールの左腕を喰い千切る。


 倉本の【スキル】“冥界の番犬ケルベロスの牙”である。


 左腕を捥がれ叫び声を上げるトロールだったが、戦意喪失するよりも寧ろ更に怒りを増し激しく咆哮する。


 それから夥しいほどの血を垂れ流しながら、両足で周囲の木々を蹴り倒したり、蒼空たちを踏み潰そうと暴れ回る。


「――少し、お静かに」


 ヤクザの頭を踏ん付け宙へ浮く大和が、|ガントレットを装備した右拳に力を込める。


 【スキル】「“青天衝せいてんしょう”」と叫びながら、トロールの顎目掛けて強烈なアッパーをお見舞いする。


 その一撃をもろに喰らったトロールは、白目を剥いて気を失うと、バランスを保てずに後方へ倒れ込む。


 ――まずい! こっちに倒れてくる!――


 トロールの巨体とそれから伸びる大きな影が、草陰に隠れていた蒼空たち3人に段々と近付いていく。だがそれは、彼らに到達することなく激しい爆発音と共に煙が巻き上がる。


 ――一体、なにが!?――


 煙が晴れると、蒼空たち3人の目の前に1匹の狐が座っていた。どうやら、トロールの巨体目掛けて【スキル】“狐火きつねび”を放ったらしい。


 アクセサリーのネックレス効果でスキルの威力が倍になったのか吹き飛ばされていくトロール。その先には、抜刀するタイミングを静かに窺っている叶の父親がいた。


 ――……まだ……まだだ…………今だッ!!――


 【アビリティ】“見切みきり”を発動させると、一瞬で間合いを詰めていく。そして、帯刀している黒色刀の柄に右手を触れさせたかと思うと、その刀身は既にトロールの上半身と下半身を綺麗に真っ二つにしていた。


 ――【スキル】“繊月せんげつ”!!――


 【スキル】繊月の相乗効果か、華蹴の抜刀術の刀身は細く鋭く、肉眼で捉えるのが難しいほどなっていた。また、彼のスキルは瀕死状態のトロールには過剰殺戮オーバーキルであった。


「た……倒した……!」


 そう言って、力が抜けたかのようにその場でへたり込む春宮。無理もないだろう。一度、トロールの巨体が彼らに倒れ込んできたのだから。


「ふぅ……みんなお疲れさん」


 大和たちにねぎらいの言葉を掛ける槍壱。


「おい、じじぃ!! てめぇ、俺の頭踏みやがって!! 殺す!!」


 ヤクザが、スーツの内側から取り出したドスを大和に向かって振り回す。


「ぼっちゃまー、無事ですかー?」


 大和は、ヤクザのそれをあしらうかのように躱しながら、蒼空の無事を確認する。


「まあ、突っ込んで行ったのが悪いな」

「申し訳ないと思っていますよ? ただ、討伐が優先だったもので」

「チッ……」


 華蹴に正論を言われたヤクザは、ドスを振り回すのをやめ『覚えておけよ』とでも言うかのようにギロリと睨む。


 ――どうせ、少しムカついたから頭踏んだだけだろうな――


 蒼空は大和の行動を読み取りながら、ヤンキー4人の方に目を向ける。そこには、彼らに詰め寄られている少年。


「みんなお疲れ様ー」


 リーゼントの男に胸倉を掴まれながら、少年は笑顔で槍壱たちに手を振る。


「ほんま、他人事やのぅ」

「さて」

「指出せ」

「え……?」


 『お仕置きはなし』と2人の言葉を忘れていなかった少年。だが2人は、少年に詰め寄っていく。


「え、ちょっ――」


 とくるりと一回転すると逃走を図る。


「どこ行くんだぁ〜?」


 少年が逃走を図ろうとした先には、ヤンキーたち4人が立ちはだかる。逃げられないと悟る少年の両肩に手を置く叶の父親とヤクザ。


「「あっち、行こうか」」


 少年に笑顔を向けながら、森の奥深くを指差す2人。恐怖を覚え身体を震わせる少年は、蒼空の方に『助けて』と顔を向ける。


「神様はなんて慈悲深いんだろう」


 蒼空は、わざとらしく両手を組む。


「違う! 違うよ蒼空くん! 助け――」


 少年は両腕を2人に掴まれ引き摺られると、ヤンキー4人と共に森の奥深くへと連れて行かれる。時折、少年の泣き叫ぶ声が辺りに響いた。


「連れて行かれちゃいましたね」

「自業自得ですね」


 春宮た蒼空が『南無』と手を合わせる。


「ぼっちゃま、今日はここで野宿に致しましょう」


 大和が蒼空の寝床を整える。


 夕暮れ時と森の中が相俟って辺りはいつの間にか薄暗くなっていた。蒼空たちは残っているメンバーで、他の6人と少年が帰ってくるまでに焚火などを作り、野宿の準備を始めた。

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