Ⅴ
さて、[ステータス]を確認し終えた蒼空たち一同。未だに暴れ回っている巨大生物のいる森へと足を踏み入れようとしていたところへ、槍壱に吹き飛ばされた少年が急いで戻ってくる。
「待って待って!! ボクを吹き飛ばしておきながら、なんの装備もなしに森へ入る気!?」
「あっ、やっと戻ってきた」
「さっきはすまんなー」
少し息を切らしながら捲し立てるように話す少年に、平謝りする槍壱。
「べ、べつに、わざとじゃないだろうし? それにボク神だから心広いし?」
と言いつつも少し不満気である。
「ほんで、どないしたんや?」
「あっ、そうそう! 装備だよ装備! ボクの残ってる力では、これぐらいしか出せないけど!」
そう言って呪文を唱えると、神代文字と一緒に金色に輝く六芒星の魔法陣が描かれる。眩い光が一瞬放たれかと思うと、そこには武器や防具、
「こりゃ、すごいわ! 流石、神なだけあるわ!」
そう言って、山積みになった装備品の中から“鎌槍”を手に取る槍壱。
鎌槍とは穂の側面に枝刃(鎌)が付いている槍のこと。そしてこれは、枝刃(鎌)が上向きに付いている“
その十文字槍を手に馴染ませるため、早速、幾度か左右に振り回す槍壱。
「……ええ感じや」
気に入ったのかニッと笑みを浮かべる。
「おお……凄い」
槍壱の槍術に感心し拍手を送る蒼空たち一同。彼らも、山積みになった装備品の中から自分に合う物を選ぶ。
「チッ……早くしろよ」
苛々が募り悪態を吐くヤクザ。どうやら彼は、自身の担いでいる大鎌以外の装備を選ばなかったようだ。
「少しくらい待てよ」
そう言ってヤクザを宥める少女の父親は、帯刀している黒色刀で充分と言うように、蒼空たち一同が装備を選び終えるのを待つ。
「では、私奴はこれを」
大和は白手袋を外し、獣の皮と爪で作られた黒色の
「僕は、これで」
春宮は、古惚けた分厚い本を手に取る。
「どれもぼくが扱えなさそうなものばかりだな」
「ぼっちゃま、これなど如何でしょう?」
悩む蒼空に
「うん。これにするよ」
そう言って蒼空は、ダガーを鞘に納め腰のベルトに装着する。
それを見ていた狐が装備品の中を漁ると、2つのアクセサリーを咥えて、1つを少女にもう1つを自分の首に掛けた。
「パパ、狐さんから貰った」
少女は嬉しそうに父親に報告する。父親は、狐をじっと見据えると、再び少女に視線を戻して「よかったね」と頭を撫でた。
「あ、そうだ」
蒼空が何かを思い出したように、モノクルを掛けた右目に右手を添えて「
【ユニークスキル】を発動させたのか、少女と狐の首に掛かったネックレスの性能を確かめる。
「えーっと、娘さんのネックレスには“治癒の加護”、狐さんのには“炎の加護”が付与されています。どちらもなんだか心強そうなアビリティですね」
「そうか、ありがとう」
少女の父親が礼を述べる。蒼空は「大したことは」と照れる。一同が装備をしたのを確認した少年が、手を叩いて大きな音を出す。
「さて、みんな準備万端のようだし、行こうか! あの森で暴れている突然変異の超巨大な魔物“トロール”退治に!!」
「色々とツッコミたいところやけど、今はそうもしてられへん様子やし、ちゃっちゃと行こか!」
槍壱が、トロールと呼ばれた魔物の方へ振り返る。
「足手纏いにはなるなよ」
「おまいう」
相変わらず仲の悪い2人。
「怪物と戦うのは初の試みです」
初めて戦う相手に大和は少し胸を高鳴らせる。その彼の様子を見て『やれやれ』と笑みを浮かべながら首を振る蒼空。
「パパ……?」
心配そうな顔で父親を呼ぶ少女。
「大丈夫だよ
「うん!」
「偉いぞぉ〜」っと頭を撫でながら少女を抱きしめる父親。
「君たち、この子を任せてもいいかな?」
「ええ、勿論です」
「は、はい!」
すんなり承諾した蒼空に、慌てて返事をする春宮。
――そうだ……蒼空くんは探偵だった。異世界に来ようが、頼まれた依頼は如何なるものでも受ける。僕も頑張らなくちゃ!――
「よろしく頼むよ」
そう言うと、少女の父親は再び森の方へと向いた。叶と呼ばれた少女も父親の言うことを聞いて、泣かないようにグッと涙を堪え、蒼空の手を強く握った。
――この子は将来、きっと強い女性になるだろうな――
蒼空たち一同は、大人4人を先頭にして漸く森へと足を踏み入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます