蒼空は、大和が考えたであろうふざけた起こし方に相当不満があったらしく、愚痴愚痴と耽りながら歩いていた。


 そして、岩の近くまで来たのに気付き顔を上げると、集まっていた人たちから一斉に視線を向けられる。


「やっと起きたか餓鬼ガキが」


 そう悪態を吐くガラの悪い男性は、灰色グレーの瞳をした綺麗な小顔をしている。


 銀色シルバーに染め上げられた襟足の残ったツーブロックマッシュには、ティアドロップの形をしたサングラスを乗せ、左耳には銀色シルバーのリングピアスを付けている。


 160cmほどの身長には、黒色のYシャツに赤色ネクタイを付け、上からはベストと白色の縦縞模様ストライプ柄スーツを着こなしている。


 ――恰好と感じから見るに彼は、リストに記載されていた極道ヤクザで間違いない――


 記憶とリストとヤクザを照らし合わせて確信する蒼空。


下っ端チンピラもさっき起きたばっかりじゃん」


 少女の頭を撫でながら、ヤクザをチンピラ呼ばわりする物優しそうな男性。


 特にこれと言った特徴はなく、身長も170cmと平均的で、鼻筋の通った顔に一般的な濃褐色ブラウンの瞳。


 右目には日本人特有の黒色の髪が掛かっており、服装もYシャツにスラックスと軽装ラフな恰好をしている。


 ただ変わっているのは、左腰に帯刀した1本の黒色刀。


 ――この2人もリストに記載されていた例の親子で間違い無いだろう――


 蒼空は、冷静に彼らの様子を観察する。


「誰がチンピラだゴラァ!!」


 ヤクザが、怒声を浴びせる。


「チンピラは良く吠えるってほんとだな」


 それに対して、更に煽る少女の父親。


「はいはい、そこまでや。子供の前で大人2人が恥ずかしいわ」


 今にも殴り合いが始まりそうな不穏な空気の中、槍壱が2人の間に割って入って、その場を諫める。


 ヤクザが舌打ちをすると、少女の父親の首に当てていた刃物をスーツの内ポケットにしまう。


 その刃物の刃長は30cm、刀身にはしのぎがなく平造りで反りが殆どない。刀身と柄の間には鍔がなく、鞘と柄の口がピタリと合っている。白鞘のそれは、短刀ドスと呼ばれた代物である。


 少女の父親も、左腰に帯刀している黒色刀から添えた右手を離す。打刀うちがたなと呼ばれたそれは日本刀の一種であり、刃長は70cmもある。

 

「ちゅうわけで、みんな揃ったようやし……」

「……あの、ごめんみんな」


 少年が槍壱の言葉を遮り、バツが悪そうに少し冷や汗を掻きながら手を挙げる。


「ん? どしたんや?」

「それが……そのぉ」


 言葉に言い淀む少年。


「はっきり言わんと、ごにょごにょ言ってたらわからんわ!」


 槍壱が少年の背中を叩くと、大きな声を出して答える。


「あと4人足りないかなー……なんて、アハハー♪」


 後頭部を掻きながら曖昧なことを吐き笑って誤魔化そうとする少年。


「「「は???」」」


 その場にいた全員は、一斉に眉をひそめる。そして、ヤクザと少女の父親、槍壱までもが少年に詰め寄っていく。


「すまん。もう一回、言ってくれるか?」


 槍壱が、すかさず少年にヘッドロックを掛ける。


「ちょっと、おふざけが過ぎるんじゃない?」


 少女の父親が、少年の首に刀を当てる。


エンコ詰めっか? あぁん?」


 ヤクザが、少年の指に刃物を当てる。


「ご、ごめんなさい……」


 「ギブギブ」と苦しそうに槍壱の腕を叩く少年。やがて、3人から許しを乞うと、立ち上がり服に付着した砂埃を叩いて落とす。


「すぐに探します……」


 そう言って少年が目を瞑ると、蒼空と大和を転移させた時のように呪文を唱え始める。だがその呪文は、森に現れた巨大生物の咆哮によって遮られた。

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