III

 突如、森に現れた巨大生物。けたたましい咆哮をあげるそれに呆気に取られ、尻餅をついてしまう蒼空。


「なんやけったいなもん現れよったで」

「な、なにあれ」

「ぼっちゃま、大丈夫ですか?」


 大和が、傍に駆け寄り手を差し伸べて立たせる。


「あっ……あそこに$#%&@¥」


 少年が、もごもごと口ごもりはっきりしない。だが、彼のその様子を見て蒼空が察した。


「どうやら、この神曰く、残りの4人はあの巨大生物のいる森にいるみたいですよ」

「じ、自称じゃないやい!!」

「え!? じゃあ、早く助けてあげないと!」


 少年の言葉を遮って唐突に声をあげたのは、第1ボタンまでしっかり締めた襟詰めの学生服を着た男性。


 目鼻立ちの整った爽やかな顔には、緑色グリーンの瞳にゴールド×ワインの色合いをしたオーバル型眼鏡を掛けている。


 髪形もツイストスパイラルパーマに重めの韓国マッシュと、少しミステリアスな雰囲気を漂わせる。


 ――彼は……橋で消えた高校生か――


 蒼空は、影が薄い彼を危うく忘れそうになっていた。


「えぇ加減にせぇよ、われ……」


 槍壱は、後頭部を掻きながら呆れる。


「あとでお仕置きな」


 少女の父親は、Yシャツの両袖口を肘の少し上の辺りまで捲る。


「しっかり落とし前つけてもらうからな」


 なんだかんだ悪態を吐きながらも協力を惜しまないヤクザ。何処から取り出したのか、肩には大鎌を担いでいる。


「不肖ながら、私奴わたくしめも助太刀致します」


 大和は、両手の白手袋を装着し直した。


 その4人から溢れる謎の絶対的安心感は、神と名乗る少年をも凌駕する。しかし、彼らの手持ちの装備では、あの巨大生物を倒すことは不可能。寧ろ、死に急ぐようなものである。


 彼らが『どうすべきか』と頭を悩ませている間にも巨大生物は暴れ回り、次々、森を破壊していく。だが彼らは『考えている余地はない』と即決すると、4人を救助すべく森へと走り出した。


 ***


 一同が森へと向かってる最中である。ふと、疑問を抱く蒼空。


 ――なんで狐がいるの?――


 少女を守るかのように並列で走る狐。艶のある綺麗な毛並みは、とても野生の狐とは思えないほど黄金色に輝いている。ただ普通の狐と違っているのは、尾が9本も生えていること。


 だが狐は『詮索するな』と言わんばかりの勢いで、横目で睨みを利かせる。蒼空が慌てて目を逸らすと、前方から大和が近寄ってくる。


「ぼっちゃま、もう間もなく森に到着致します。私奴から離れぬよう、しっかり付いてきて下さい」

「まったく……大和はすぐ子供扱いするんだから」


 大和の心配を余所に『やれやれ』と適当にあしらう蒼空。


「いや自分、子供やろ!!」


 すかさずツッコミを入れる槍壱。


「頼りないですが、僕も一緒にいますので」


 槍壱のツッコミをスルーして、本当に頼りなさげにそう言うのは、蒼空と並行して走る丸眼鏡の高校生。


「――あっ、すみません。名乗っていませんでしたよね? 僕、春宮凛都はるみやりつって言います。よろしくお願いしますね!」

「お願いします春宮さん。ぼくは――」

「自分ら、自己紹介はあとにしぃ!!」


 槍壱の言葉と共に、森から地鳴りと突風が彼らに向かって吹きつける。


 蒼空は、飛ばされまいと踏ん張ったものの、体重も軽いせいもあってか地面から足が離れ宙へと浮いてしまう。

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