The early bird catches the worm.

 ――AM:6:00。


 蒼空が起床する30分前。


 焚火の傍で夜通し語り合っていた槍壱と龍王は、目を覚ました華蹴と獅子神、海堂と殺に気付き「おはよう」と互いに声を掛け合う。


「寝てなかったのか?」


 獅子神が2人に向かって尋ねる。


「なんやとらちゃん、話したかったんか?」

「ちげぇよ」


 槍壱は歯を見せ笑いながら獅子神を茶化す。


「……どうしたんですの?」


 寝ぼけ眼を擦りながらふにゃふにゃした声で尋ねてくる殺。


「なんでもねぇよ」


 獅子神はそっぽを向きながら答える。


 彼らの会話をぼーっと眺めていた華蹴は、ぐーんっと伸びをする。それから着ていたYシャツを脱ぎ綺麗に畳むと、それを叶の頭の下へと敷いた。


 そして、娘を起こさないようそっと立ち上がった華蹴は、焚火の傍から少し離れストレッチを始める。それに気付いた他の4人も一緒になってそこへ混ざり始めた。


 数分経った頃。槍壱が思い出したように朝ご飯の話を皆に振った。だが彼らは頭を悩ませるばかりで、誰も口を開こうとしなかった。


「これ使うといいよ」


 ながら聞きしていたのか、彼らに分厚い本を手渡すアルフィー。濃い茶色をしたそれは、見たことのない模様が表紙に描かれている。


 彼らは、その本を恐る恐る開いては、ゆっくりページを捲っていく。そこには、この異世界に生息する植物や生物など沢山の情報が記されていた。


 そうこれは、ありとあらゆる情報が記されたこの世に1つとない、アルフィーお手製の“異世界図鑑”であった。


 その図鑑の内容を頭に叩き込んだ槍壱が、パタンッと音を立て本を閉じると「よし!」と意気込みながら森の中へ入って行こうとする。しかしそれを、華蹴たちは一斉に止めに入った。


「なんやな……」


 不満そうな顔をする槍壱。


「1人では行かせられない」


 腕を組み仁王立ちする華蹴に、龍王たちも『うんうん』と頷く。


「しかしやなぁ……」


 後頭部を掻きながら困った様子をみせる槍壱。


「折角5人も起きているんだ。一緒に行動しよう」


 華蹴の提案に『うんうん』と頷く龍王たち。槍壱は少し考え「せやな」と答える。


 それから数分間、サバイバル経験のある槍壱が注意すべきことを華蹴たちに教え込むと、森の奥地の探索と近辺の森での食料採取、どちらに誰が行くかの振り分けを始める。


 槍壱は食料採取に行くつもりだが、助けは1人でいいらしい。しかし、森の奥地の探索の方が危険性が高いため、出来るだけ大人数で行って来て欲しいと要望を出す。


 すると、その食料採取に付いて行くと華蹴が言い出す。槍壱を止め提案も出したのもあるが、理由はそれだけではなかった。


 彼が手を挙げたのは、喫茶店のマスターであり食材の目利き術もあることから的確に判断できるためだった。


「頼りにしてるで華蹴!」


 槍壱は、華蹴の背を軽く叩く。それに対して華蹴も「こちらこそ」と微笑み返す。そして意外にも、龍王たちもそれに賛成の意を示した。


「じゃ、俺らは【スキル】でも試しに行くか」

「使いたいだけやろ」


 そう言って獅子神が森の奥地へと歩き出すと、龍王たちも彼に付いて行く。


「危なかったらすぐ逃げるんやで〜」


 森の奥地へと歩いて行く4人の背中に声を掛ける槍壱。それに対して獅子神は『わかった』と右腕を上げる。


 丁度そこへ、森の奥地の入口付近で巡回をしていた大和と出くわす。


「少しふらついて来る」


 獅子神はすれ違い様に一言。他の3人も大和に手を振ったり会釈しながらその場を通り過ぎて行く。


「お気をつけて」


 大和も少し頭を下げながら一言だけそう伝えると彼らを見送った。

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