3人のヤンキーの自己紹介が終わり、残すはあと1人。殺の横に座っている男に視線を向けるが、彼は眠いのか三角座りをしながら、首を縦に振ってうとうとしている。


「おーい、龍王りおー。起きろー! 最後、お前やぞー」

「……ん」


 叶が起きないように、小声で呼びかける槍壱。その声に反応して瞬きを何度かすると、目を擦り大きく欠伸をする龍王りおと呼ばれた男。


「ごめん……寝てた」

「自己紹介、お前で最後やから」

「もうみんな終わったん」


 そう言って頭を掻きながら怠そうに欠伸をする龍王。


 身長は160cm後半と平均的だが、スラックスとYシャツの上に着た黒色のカーディガンと簡素シンプルな恰好が容姿ルックスと相俟って様になっている。


 髪型もとてもナチュラルな短髪ショートヘアで、髪色も地毛なのか薄い茶色ブラウン。瞳の色も一般的なブラウンで顔もそこそこいい。左耳にはスタッドピアスを付けている。


 “一匹狼”の言葉が似合いそうな彼は、意外と裏では女子にモテ生やされてそうな雰囲気をしている。


「あー……なんやっけ? えー、京都の? なんか頭に勝手にされてた八雲龍王やくもりおです。よろしくー」

「おい、龍王! 適当すぎやろお前!」

「えぇ……あっ、歳はみんなと同じ18。あとなに? 好きな食べ物は、甘いの。苺とか」


 寝起きで怠いのか面倒臭いのか、はたまた元々こういった性格なのか、適当に自己紹介を終える龍王。


「因みにわいら幼馴染やねん! こいつ昔からこんなぼーっとしてんねんけどな、腕はピカイチやねん。贔屓ひいきしとるわけちゃうで? でま、こん中で一番強いんちゃうか?」

「おい待てよ」

 

 何やら一番強いと言う言葉が気に食わなかったのか、立ち上がり話を止める獅子神。


「とらちゃん、どしたんや?」

「龍王が一番強いってのは、聞き捨てならねぇ」

「……50勝49敗1分」


 今迄の勝敗の記録をボソッと呟く龍王。それを聞いた獅子神が、笑っているのか怒っているのか眉を引くつかせながら指の骨を鳴らす。


「上等だ……決着つけようじゃねぇか」

「やだ。怠い」

「てめぇ……」


 龍王に即答で断られ、苛々が募り始める獅子神。


「まあまあ、とらちゃん。時間も時間やし、寝てる子もおるわけやから、な?」

「槍壱……てめぇも混ざっていいんだぜ?」


 獅子神は、槍壱にも喧嘩を吹っ掛ける。


「ええけど、とらちゃんわいに一回も勝ったことないやん」


 槍壱のその言葉に対し、海堂と殺、龍王までが声を抑えながら笑う。言い返す事が出来ない獅子神は、その場に胡座をかいて座りそっぽを向く。


「さて、全員の自己紹介も終わったことやし、どないしよか?」

「そうですね……」

「寝る」


 何かないかと考える春宮に対し、すぐに寝ようと目を瞑る龍王。


「まだ21時ですよ。時間合ってるかわかりませんけど」


 手に持っていた銀色シルバーの懐中時計を開き、ローマ数字で指された時間を皆に告げる蒼空。


 その懐中時計の蓋の内側部分には、母親である美島小百合みしまさゆりと2人で写った写真が飾られている。


「21時か。なんや中途半端な時間やなぁ」


 頭を掻きながら悩んでいた槍壱が、思い付いたように手を軽く叩く。


「そや! アルフィーちゃん、なんか話すことあるやろ!」

「え……今はちょっと」


 何やら今は都合が悪いのか、アルフィーに視線を向けると、何故か暗い森の方に1人で入って行こうとしていた。


「どこ行くんだ?」


 アルフィーの服に大鎌の刃先を引っ掛けて引き止める倉本。


「え、いやちょっと探検に……」

「暗い森を? 1人で?」


 獅子神に詰め寄られるアルフィー。気付けば、殺と海堂も周りを取り囲む。龍王は丁度いいやと1人目を瞑って眠り始める。


「1人だと心細いだろ? 俺たちも一緒に行ってやるよ」


 転移先を誤ったことをまだ根に持っていたのか、アルフィーをひょいと担ぐと森の方へと入って行くヤンキー3人と倉本。


「あんま遠くまで行きなやー」


 槍壱が彼らにそう注意すると、獅子神が『わかった』とでも言うかのように手を上げる。


 ――それにしても、また個性豊かな人達を連れて来たもんだ――


 森の奥へ連れて行かれるアルフィーを眺める蒼空は、気が抜けたのか大きな欠伸をする。一日中、動きっぱなしで緊張も解けたせいか、どうやら身体と脳に一気に疲労がきたようだ。


「助け……助けて!! 誰か!!」


 アルフィーの助けを求め泣き叫ぶ声がどんどん遠くなっていくのを聴きながら、蒼空は硬い土の上に横になり朝まで深い眠りについた。


「おやすみなさいませ、蒼空様」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る