――数時間が過ぎ。


 先程まで、森を照らしていた蒼い月は、雲に覆われてしまい辺りは一層と深い闇に包まれる。だが、焚火のおかげか円になって座っている蒼空たちの場所は、明るさを保っている。


 しかし、その火も段々と弱くなっていた。それにいち早く気付いた槍壱は、焚火の近くで乾燥させていた薪を幾つか火にくべる。すると、火はたちまち力強さを増していった。


 さて、自己紹介もいい具合に進んで後半へ。トリを飾るのは不良ヤンキー4人組。


「ほな、ちゃちゃっと自己紹介してもらおうか。“とらちゃん”」

「その呼び方やめろよ」


 とらちゃんと仇名で呼ばれたリーゼントの男が、槍壱にタメ口を利く。


「ええやんけ、わいらの仲やろ? って事で、とらちゃん。声のトーン落としながらで頼むわ」


 そう言って、左手の親指で華蹴の方を差す槍壱。どうやら、ラウルと戯れていた叶が眠てしまったようだ。


「わーったよ……ったく」


 リーゼントの男が、胡座あぐらをかいていた足を崩し立ち上がると、仕方なさそうに自己紹介を始める。


「俺は、獅子神虎之助ししがみとらのすけだ。歳は18。これでも東京で頭張ってる。それと歳はちげぇけど、槍壱とは昔からの親友マブダチだ。つーことで夜露死苦よろしく


 ヤンキーに似合わない小声で、淡々と自己紹介を終える獅子神。


 改めて容姿を見てみると、黒色の瞳をした男らしい顔つきに綺麗に整えられた黒色のリーゼントが際立つ。身長も170cmと平均的ではあるが、そこいらの高校生よりかはガタイが良い。


 また、“FIRE”と書かれた赤いTシャツの上には、ボタン全開のYシャツと襟詰めの学ランを着こなし、“ドカン”と呼ばれた太もも部分が太いズボンを履いた姿が、体格と相俟って様になっている。


 自己紹介を終え、皆から拍手を貰った獅子神が少し照れ臭そうにしていると、隣に座っていたハーフリムのスクエア型眼鏡を掛けた不良の1人が、勢いよく立ち上がる。


「か……海堂義経かいどうよしつね。18」


 唐突に立ち上がったかと思うと、名前と年齢だけボソッと呟く海堂。どうやら、自分の番が回ってくるまで緊張していたらしい。


 海堂は獅子神よりか少し細身ではあるが、鍛えているのか腕にはしっかりとした筋肉がついている。


 身長も180cmと高く、眼鏡を掛けた知的な顔には青色の瞳が輝く。髪は青色に染め上げた自然ナチュラルなコンパクトウルフである。


 半袖のYシャツには、青色を基調とした黄色と黒色の混ざったネクタイを結び、下は格子チェック柄の無地のスラックスを履いている。


「せやせや、忘れとったわ! こいつ結構な人見知りちゃんでな、あんま喋るん得意ちゃうねん。せやから、わいがさらっと紹介するわ。“ヨッシー”座っとき」


 海堂の首に回した腕を解き、ヨッシーと仇名で呼んだ彼の紹介をし始める槍壱。


「さっきも聞いた思うけど、名前は海堂義経。えー18……やったっけ?」


 コクリと頷く海堂。


「ほんで、北海道で頭張っとんねん! しかも、こいつ結構な武術の達人でな、殴ったりするより、守るんがめっちゃ強いねん。せやから周りからは、“鉄壁てっぺきの義経”なんて呼ばれとんねん。な?」


 その呼び名が恥ずかしいのか、下を向いて顔を赤らめながら頷く海堂。


「まあ、そないな感じかな? って事で、みんな仲良うしたってな!」


 海堂の紹介が終わると、彼の頭をポンポンと叩いて自分の座っていた場所へと戻った。


 そして、海堂の隣に座っていた女の子が、今か今かと身体を震わせながら待っている。


「おまっとうさん! ほな、あやめちゃん。自己紹介よろしく!」


 ニッと歯を見せ笑うと、殺と呼ばれた女の子に自己紹介を促す槍壱。


「やっと、あたくしの番ですのね!」


 彼女は、膝上の高さで履いた黒と水色の格子チェック柄のスカートに付着した土埃を手で払うと、お嬢様口調で話し始める。


「あたくしは、椎名殺しいなあやめ。16歳よ。殺って呼んで下さると嬉しいですわ。自分で言うのもあれですけど、これでも椎名財閥の令嬢ですの。それと、高校ではチアリーダーを少々。皆様、よろしくお願い致しますわ」


 片足を斜め後ろの内側に引いて、もう片方の足の膝を軽く曲げると、背筋を伸ばしたまま両手でスカートの裾を軽く持ち上げてお辞儀をする殺。


 145cmと小さな身体には、Yシャツに赤い大きなリボン、その上にはベージュのカーディガンを着用している。可愛らしい小顔の鼻の辺りには少しそばかすが広がっており、それをアクセントに紫色ヴァイオレットの瞳が輝く。


 髪もキャラメルブロンドに高めフロントトップのお団子シニヨンヘアと可愛らしい髪型をしている。たまに、ニッと笑った時に見える八重歯がまた特徴的である。


 その可愛らしい姿から不良ヤンキーとは思えない礼儀正しい振る舞いと丁寧な言葉遣いに、蒼空たち一同は盛大に拍手を送る。

 

「+αで言うと、“博多の女帝”って言われとんねん。つまり、福岡の頭っちゅうことや。怒らしたら怖いで〜。まあ、ええ子やから仲良うしたってな」

「ちょっと槍壱さん!? それ言わないで下さる?! 折角、印象良くしようと説明を省いたのに!」


 顔を赤らめながらむくれる殺に対し、悪戯っぽく笑う槍壱。だがそれもすぐに止めると、彼女は槍壱をどこか安心したように見つめる。


 ――でも、よかったですわ……また、こうして貴方様と出会えて――

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